【第十四章】だから、それは何?1


只今21時45分。

仕事が終わり、春香を誘って近所の居酒屋に飲みに来ている。

なぜこんな時間かというと、今日は結婚式の2次会による貸切りの為、宴会終了に伴い店も営業終了となったからだ。


乾杯後、春香はいつも通り、ジョッキのビールを一気に半分まで減らした。


「疲れた!マジで疲れた!あいつら散らかすだけ散らかしやがって」


「あのはしゃぎようは凄かったね」


「食べ物はこぼしまくるわグラスは割るわ、歌い出すわ!カラオケにでも行ってろっつーの!」


完璧な接客に徹している分、反動が大きいんだろう。今日、何度春香の舌打ちを聞いた事か。


「新婦、20歳らしいよ。友達もみんな若かったしね」


「あたしが20歳の時はもっと節操あったわよ。ったく、今時の若もんは」


「ウチらも十分若いと思うが・・・」


「何言ってんの、もう25よ?アラサーよアラサー。あー!早く結婚したい!働かないで楽したい!」


「旦那の稼ぎだけで楽したいなら、お金持ってるおじさんと結婚すればいい」


春香はテーブルに頬杖をついた。「・・・最近、それでもいいって思い始めてるのよねえ。なんだかんだ言って、結局はお金だし?」


「節操はどこに行った」


「でもある程度の容姿は必要よ?ダンディーなおじさまならアリかも」


「ダンディーなおじさまは結婚してるか彼女いると思うけどね。お金持ちにこだわらず、普通の人と結婚して共働きする事をオススメします」


「なによ、早坂さんが稼ぎ良いからって余裕ぶっちゃって」


持っていた箸を落としかけた。「早坂さん関係ないし、稼ぎ知らないし、意味わからないし」


「早坂さんの話があったんじゃないの?」


今度は本当に箸を落とした。「・・・なんで?」


「だって、一真くんに内緒であたしの事飲みに誘うって事は2人じゃないと言いづらい事でしょ。イコール早坂さんじゃない」


この余裕な顔で断言されるのは癪に触るが、事実なだけに言い返せない。気を取り直して長芋のわさび漬けを一切れつまむ。


「ッ・・・」鼻の奥がツーンとなって涙が出てきた。ビールで長芋を流し込む。


「泣いてんの?とうとう振られた?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る