救世主6


「雪音ちゃん、来年卒業でしょ?就職したいって言ってたし、時期的にちょうどいいかなって。何より、俺としては雪音ちゃんが欲しいんだよね。・・・なんか今、愛の告白ぽくなかった?」


最後のほうはスルーする。「なんで・・・ですか?」


「うーん・・・一言で言うと、仕事が出来るから?そして誠実だから?」


だから、なんで疑問形なんだ。

驚いたのは、自分の中に芽生えた感情だった。


「まあ、無理にとは言わないけどさ。ちゃんとした会社に就職したほうが保証は・・・」


「やります」


木下さんは固まり、目を見開いた。


「え?今、何て言った?」


「やります。一緒に働かせてください」


「・・・え、いいの?」


「木下さんが言ったんじゃないですか」


「いや、そうだけど・・・そんなに簡単に決めていいの?」


「聞いてすぐ、やりたいと思いました。だからお願いします」話を聞いて、嬉しいという感情が先に来たのが自分でも驚きだった。


「いや、お願いしてるのは俺だけど・・・本当にいいの?二言はない?」


「はい、お願いします」


木下さんの顔がみるみる明るくなっていく。こんなに嬉しそうな顔も出来るんだ。


「やった、雪音ちゃんゲットだぜ」木下さんは、やる気の感じられないガッツポーズをした。


「ポ◯モンみたいに言わないでください・・・」


「よぉーし、じゃあそーゆう事で、ヨロシクね雪音ちゃん」


木下さんがわたしに手を述べた。わたしはその手を取り、しっかりと握手を交わす。


「よろしくお願いします」


木下さんは鼻歌と共に、いつもより軽やかな足取りで厨房へ戻って行った。



──突然舞い上がった話だったが、不思議とわたしの心の中は、嬉々としていた。

ただでさえ生きづらい毎日に、ポッと光が灯ったような、そんな感覚を覚えた。

道筋が立った事。なにより、必要とされている事。それがこんなにも生きる活力になるんだと、初めて知った。


だから、後に店長となるあの人は、わたしにとって救世主その物だった。







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