救世主5
それからというもの、わたしはしばらく無気力状態だった。
おばあちゃんが亡くなってから、家に帰るのが余計苦痛になった。それだけおばあちゃんの存在に助けられていたんだと、後になって実感した。
そんなある日、バイト先でいつものように賄いを頂いていると、目の前にグラスに入った水がやってきた。そこには、木下さんの姿。デジャヴだったが、この前と違うのは、木下さんがわたしの隣に座った事だ。
「・・・ありがとうございます」
「雪音ちゃん、疲れてるね。大丈夫?」
「あ、はい。あの、ここに居ていいんですか」
「うん、一通りオーダー終わったから」
「そうですか」
木下さんはボーッと前を見ながら、両指でピアノを弾くようにテーブルを鳴らしている。
この前から、いったいなんなんだ。
「あの、わたしに何か、話があるんですか?」
木下さんは虚を衝かれたようにわたしを見た。「え、わかるの?」
「・・・なんとなく」そりゃあ、無言で隣に居座られたら、そう思うだろう。
「うーん、そうなんだよね?」
なぜに、反疑問形?「なんでしょう?」
「うん・・・」それから間があった。何か、言いづらい事なのだろうか。「雪音ちゃんに、相談があるんだよね」
「相談?」
「うん」
その先を待ったが、木下さんは何も言わない。そんなに躊躇するような事なのか?
「お金ならありませんよ」
木下さんはブッと噴き出した。こういう姿を見るのは、何気に初めてだったりする。
「高校生にお金せびったら、俺もう人として終わってるよね」
「よかった。じゃあ、なんですか?」
「うん、単刀直入に言うけどさ、雪音ちゃん、俺と一緒に働かない?」
今度は、わたしの間が空いた。とりあえず、言葉通りの意味を理解する。
「一緒に働いてますけど」
「あー、そうじゃなくてね。新しい店でってこと」
「新しい店?」
「うん。俺さ、独立して自分の店持つんだ」
「・・・えっ、そうなんですか?」
「うん、これは一部の人間しか知らないんだけど。着々と準備は進めててね、来年の春にはオープンする予定なんだ」
「ほえー・・・凄いですね」感心して、先程の言葉の意味を理解する。「えっ、そこで一緒にってことですか?」
「うん。ダメ?」
「・・・ダメって・・・」本当に単刀直入だった。イマイチ頭が追いつかない。
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