始まり2


「ありがとうございました〜、お気をつけて〜」


最後の客を見送った春香(ハルカ)は、店に戻ってくるなり、ふあ〜と豪快なあくびをかました。「あ"ー、疲れた。早く帰ってビール飲みたい」


「今日のは2オクターブ高かったね」わたしが言うと、春香はさっきまでの営業モードの顔に戻った。


「お疲れ様ですぅ。さっ、ちゃっちゃと片付けて早く帰りましょう」


「・・・猫かぶり」


わたしの嫌味を無視して、春香はそさくさとキッチンへ向かった。「あたし洗い物するから、あんたホールお願いね」


「あいあい」わたしはテーブルに残った皿とグラスを片しに入る。



まあ、確かに春香の言い分には一理ありだ。

今日は金曜日。週末ということもあり、店内はオープンから賑わっていた。休む暇も無く、足はもうパンパンだ。

早く帰ってビール・・・ではないが、暖かいお湯に浸かりたい。



「はあ〜、疲れたねぇ」


そんなわたし達をよそに、入口の待合席に座りたばこをふかしている男が1人。


「毎度言いますが、店内は禁煙です店長」わざと皿を鳴らし片付けをアピールしたが、こちらを見向きもしない。


「お客さんいないからいーの」


「そのお客さんには外で吸わせてるくせに」わたしの指摘を無視して、店長は2本目に火をつけた。



これ以上言うだけ無駄なのはわかっていたから、片付けに徹した。


ここは創作イタリアンの店、『TATSUータツー』

オフィス街ということもあり、日頃からサラリーマンやOLの憩いの場になっている。


従業員は、店長の木下 達也(キノシタ タツヤ)、大原 春香(オオハラ ハルカ)、そしてわたし中条 雪音(ナカジョウ ユキネ)の3人だ。


ちなみに店の名前でもあるシェフの店長は、基本、やる気無し。調理をしている時以外は常に携帯をいじっているか、タバコを吸っている。

というか、その姿しか見たことがない。

"自称"40代らしいが、わたしには時々、初老に見える。


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