第4話


 あれから丁度二週間が経過した。大学の講義を終えた僕は自転車に乗って自宅へ帰っていた。昨日からこの辺りでも木枯らしが吹くようになり、中々に寒い日が続いていた。昨日は西日が差していたので暖かかったのだが、今日は一面曇り空でより一層寒さを際立たせていた。

 道端に落ちる枯葉は日に日に増して行った。下を通るたびにカサカサと音を鳴らし、風と共に秋の終わりを知らせてくれた。裸木もあちらこちらで現れはじめた。

 代わりに僕は厚手のカーディガンを羽織るようになった。風で暴れるのが嫌なので、移動中はボタンを全て留めていた。これは去年、クリスマスプレゼントにと彼女が渡してくれた物だから、大切に使いたいのだ。


 彼女とはしばらく会っていない。僕があまり会う気にならないのもあるが、それより彼女が嫌がっていた。「しばらく家には来ないで」と彼女からのメッセージが送られたきりだ。

 映画を観なくて良くなったのは嬉しいが、彼女の膝枕が無いのは想像よりも堪えた。喪失感というのはいつも急に襲ってくる――少なくとも僕はこれまでに段階的な喪失感と出会ったことがない。

 今の僕は、僕以外の暖かいものを何も持ち合わせていない。それまで活動的だった様々な暖かさは、冬が近付くに連れて一通り失われていった。僕の周りは確実に静まりを広げていた。


「春になればまた新しい生命いのちが輝くのだろうか?」


 僕はつまらない映画のつまらない登場人物のようなことを呟きながら自転車を漕ぎ続けた。そうしてまた風が吹き出した。

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