第1話


 ある秋の夕暮れ、僕は眠い目をこすりながら彼女の家で映画を見ていた。一人暮らしのワンルーム部屋に二人でいると少しばかり狭く感じた。


 彼女がB級映画オタクという何とも面倒な趣味(もちろん口には出さないが)を持っていて、僕は毎週それに付き合わされていた。


 毎週金曜日に三本のビデオを借りた。そして土曜日の夕方頃に一気見する。一作品につき一時間くらいで見れるので、およそ三時間。多少長引いても四時間以内には見終わる計算だ。


 僕は一年前、彼女にどうして何本もB級映画を観られるのか聞いたことがあった。少なくとも僕は一度に何本もつまらない映画を見ていられない。


 僕がちゃんと映画を観るのは、最初の一本だけだった。二本目に入ると急に眠気が襲ってきてしまう。それはどんな週でも変わらずだった。トマト嫌いな人が何回食べても嫌いなように、B級映画というものが僕は苦手なのだ。



 ――その時は結局、彼女の答えが聞けなかった。それは彼女が質問に答えなかったからではなく、映画が二本目に突入していたからだった。



 僕は二本目が流れたあたりで、彼女の膝を枕代わりにしていた。右耳は膝の温もりに溶け、左耳はつまらない音声にゲンナリする。横向きに上映される映画が更に眠気を加速させて、そのままゆっくりと目を閉じる。

 

 こうして僕と彼女の映画館が開かれる。彼女が一体何を思ってこの時間を過ごしているのか、僕には既にどうでも良くなっていた。ただ目の前にある膝枕に必死にしがみつくだけだった。

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