第7話
これくらいの熱さでも食べられないなんて、猫舌って不便!
と、驚愕を受けつつも健一が目の前でふーふーしてくれている姿にまたドキドキしてきてしまう。
「はい、これでどう?」
自分が食べる物を健一が息を吹きかけて冷ましてくれるなんて、こんな世界あるわけない。
猫ならではの特権が多すぎて頭がクラクラする。
それでもどうにか理性を保ちつつ、もう1度ミルクに口をつけた。
今度は熱すぎなくていい温度だ。
一口食べるとどんどん食欲が湧いてきてあっという間にミルクを飲み干してしまった。
それどころかまだないだろうかとクンクン匂いを嗅いで探してしまう。
あぁ、私ったらみっともない。
なくなったことくらい見ればわかるのに確認せずにはいられないなんて!
恥ずかしくて顔をうつむけたくなったとき、健一がまた冷蔵庫を開けた。
もしかしておかわり!?
と思って飛んで行ってみるとバターを取り出したところだった。
これからトーストを焼いて食べるようで、いつの間にかキッチンにはコーヒーの匂いもただよっている。
人間だったころはコーヒーの匂いが好きだったけれど、今はなんだか……変な匂いに感じるかもしれない。
あまり強い匂いは苦手になってしまったようで、尚美はすぐにリビングスペースへと逃げていった。
テーブルの下で丸まって待っていると20分ほどで朝食を終えた健一が「なにしてるの?」と、テーブルの下を覗き込んできた。
その口元にトーストのかけらがついているのが見えて尚美はテーブルの下から這い出した。
トースト、付いてるよ。
と教えてあげたいけれど、もちろん「ミャア」としか話せない。
どうやって教えてかと思ったとき抱き上げられて、食べたばかりの朝食の美味しそうな匂いが尚美の鼻を刺激した。
……そんなつもりはなかった。
ただ健一の口から匂いがしてきていて、つい匂いを嗅いでしまって。
そしたらトーストのかけらが視界に入ってきて……思わず、舌を出してそれを舐め取っていたのだ。
健一の口元をペロリとなめてしまってからハッと気がついた。
私、今なんでことを!?
自分の舌先は少しだけ健一の唇に触れてしまったかもしれない。
突然こんなことをするなんて、きっと嫌われちゃう……!
「食べかすを取ってくれたのか? ありがとう」
え?
健一の予想外の言葉に尚美はキョトンとする。
キョトンとしたままの尚美に頬ずりする健一。
今の行為って、許されることなの?
人間なら絶対に許されない行為だったと思う。
だって今のはほとんど無断でのキスだった。
それでも健一は嬉しそうに微笑んでいる。
それが信じられなくて尚美はしばらくの間放心状態になってしまったくらいだ。
それから朝のニュース番組を見た健一は尚美を連れて近くのペットショップへ向かうことになった。
「猫用のフードにトイレにおもちゃに。買うものが沢山あるなぁ」
指折り数えながらも健一の頬はずっと緩んでいる。
ミーコのために買い物することがよほど嬉しいみたいだ。
「車に乗っている間はおとなしくするんだぞ?」
そう言われて尚美は助手席に座ることになった。
ペット用ののケージはないからそのままお座りすることになる。
これじゃシートベルトもつけれないけれど、とにかくおとなしくしているしかなさそうだ。
それにしても……こんなことになって健一の運転する車に乗ることができるなんて。
真剣な顔で運転する健一を横目でチラリと見る。
会社の女性社員たちが見たらこぞって黄色い悲鳴を上げそうなビジュアルだ。
ミーコを助手席に座らせているからか、健一の運転はとても静かで尚美もほとんど体勢を崩すことなく目的地に到着していた。
「到着したぞ」
そこは尚美も知っている大きなペットショップだった。
動物を買っていない尚美には関係のない場所だったけれど、こんな風にお世話になる日がくるなんて思ってもいなかった。
健一はミーコをカートの上に乗せるとそこ横にかごも置いて店内へと入っていった。
ちゃんと、動物が座れる場所がカート内に設置されているタイプだ。
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