霧を出したりしまったりする変幻自在な彼女は嫌いですか
「このクソメス豚泥棒猫ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」
「フ。どうも霧香お義姉様ですブヒニャン。これで茉奈さんは永遠にずっと私の義妹ね? 嬉しい。これで義理姉妹3Pが出来るわね。嬉しいわよね? 因みに私は嬉しい。これで茉奈さんと私は正真正銘の家族よ」
「
「いやだって、霧香先輩はあぁ見えて真面だし」
「下の字呼びィ⁉ はぁ⁉ あの
夕方。
正確には自室で色々としてしまったものだから、夜の10時ごろ。
下冷泉霧香と一緒にお風呂に入り、彼女と一緒に正座しながら僕は茉奈と和奏姉さんに彼女と交際した事を報告するや否や、和奏姉さんは嬉し涙を流しながらは喜び、茉奈は悔し涙を流しては今にも包丁を取り出そうとせんばかりの気迫を見せていた。
「うんうん、何だかんだで唯くんと霧香ちゃんは仲が良かったものね! お姉ちゃん嬉しい! ほら、茉奈ちゃんも余りの嬉しさに感極まって泣いてるもの!」
「くゥ……! わか姉の笑顔が眩しくて浄化されるゥ……! 何という事かァ……! もはやこの寮で頭が真面なのはこの義妹以外にいないのではないのかァ……⁉ なんか1人だけ別の世界に飛ばされた物語の主人公の気持ちが今ではすこぶる共感が出来て仕方がないッ……! この疎外感は他では絶対に体験できませんものねェ……! おいメス豚? 話し合いをしましょう? 2人きりで。私の部屋の中で鍵をかけて。大丈夫です絶対に何もしませんよハイ。今なら人間首絞め部門でギネス記録が出せる気がするんですよね。歴史的瞬間に立ち会ってくださいこのメス豚。明日の朝食用の豚ミンチが足りてないって
2人きりになった瞬間に首でも絞めてきそうな顔をしている茉奈であった。
そして、そんな茉奈を見て下冷泉先輩……もとい、霧香先輩は「フ。怖い」だなんて甘ったるい声を出しては僕の腕に絡みつくものだから、余計に茉奈の表情が酷い事になっていた。
とはいえ、茉奈も茉奈で下冷泉霧香がどれだけ僕の女装事情に貢献したのかを知っており、本能よりも理性の方が強かった彼女は殺人という罪を侵すことは無いというのを彼女の義兄である僕は一番に分かっていた。
「……というか和奏姉さんは最初から霧香先輩と共犯関係だったんだ」
「うん。百合園家と仲が悪い下冷泉家っていう背景にちょっとだけ思うところはあったけれども、それでも私は霧香ちゃんっていう背景を信頼する事にしてみた。結果はそれはもう
「フ。あの時のわか姉のネガティブなオーラはそれはもう凄かった。実際問題、何かやましい事をしているのではないかって周囲から見られてしまうぐらいに黒くて暗くて淀んだ気配をドビュドビュ出していたもの」
言われてみれば、なるほど確かに。
当時の3月の頃は僕が不登校を決め込んでいた時期であり、そんな僕に百合園女学園理事長代理なんていう無理難題をこなす事になってしまった和奏姉さんの落ち込み具合はそれはもう凄かった。
普通、あんな落ち込み度合いからたった1ヶ月で回復なんて出来る訳がないだろうって思わされるぐらいには落ち込んでいたのにも関わらず、和奏姉さんは4月に入る頃合いにはすっかり精神的に回復していたから僕は気にしない事にしていたのだが……まさか、それすらも僕の隣にいる霧香先輩の掌の上だっただなんて夢にも思わなかった。
「ところで霧香先輩」
「フ。なぁに? 私の彼氏である唯お姉様?」
気になる事があったので下冷泉霧香に質問をすると彼女は常日頃から見せてくれる変態メス豚先輩としての余裕たっぷりの笑顔をこちらに向けるが、そうする度に僕の義妹である茉奈が今にも舌を嚙み切って自害でもしてきそうな形相をこちらに向けてくるものだから大変に心臓に悪い。
茉奈には後で何回も謝っておこうと内心で決心した僕は『彼女』という存在になってくれた霧香先輩に前々から抱いていた疑問を呈する事にした。
「なんでそんな喋り方を?」
「フ?」
「いえ、そんな分かっているけれど分かっていない風を装うような笑みを浮かべても誤魔化されませんってば。あの時、僕に晒してくれた喋り方はしないんです? アレ、可愛いかったのに」
「……フ」
いつものように煙に巻こうと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべる彼女ではあるのだが、心なしかいつもの彼女に比べると両頬が本の僅かではあるのだが赤い。
もしかすると、あのキャラはあんまり人には見せたくないキャラだったりするのかもしれない……そう思っていた矢先に、もうすでにティッシュの箱を5個ほど使い潰していた和奏姉さんが察したと言わんばかりの声を出してみせた。
「ふーん? 霧香ちゃんは素を茉奈ちゃんに見せたくないんだー?」
「……フ。何の事かしら、わか姉。ご覧の通り、これが私の素なのだけど?」
「ふふ、そういう事にしておくね?」
「わか姉が何を言っているのか良く分からないけれど、感謝する事にしておくわね」
一体全体、どうしてそんな事をするのだろうか。
もう霧香先輩の素を隠す必要なんて無いって言うのに……そう思ってはいたのだが、今にして思えばこの場にはまだ下冷泉霧香の素である『京都弁僕っ娘』を知らない茉奈がいた。
もしもあのキャラを茉奈の目の前で披露すれば、いつもの変態的言動を繰り返す下冷泉霧香を知らない義妹は彼女の頭がいよいよおかしくなったのだと早々に結論づけて病院に連絡をするか、一気に入ってくる情報量の前に失神してしまうかもしれない。
そう考えるのであれば、なるほど、下冷泉霧香の配慮はあながち間違いではなかったかもしれない。
「何はともあれおめでとう、2人とも! 保護者である和奏お姉ちゃんは2人の交際を認めます!」
「……まぁ、いいんじゃないですか。流石に去年の3月の時から
幸いにも、僕と下冷泉霧香は祝福された。
世界的な有名なロミオとジュリエットよろしく、仲の悪い百合園家と下冷泉家の関係性によってこの関係性が無くなるという事は免れたのであった。
━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━╋━
そして、色々とありすぎた日から少しばかり時間が経ち、明日という朝がやってくる。
「あっ、ゆーくん! おはよー! 今日はえらい早いね?」
「……朝5時にはいるとは思ってましたけど、まさか朝の4時の段階でいるのは予想外でした」
「えへへ。と言っても今来たばっかりやわぁ。いつも朝の3時ぐらいに起きて、身支度して、ゆーくんがいつ一目惚れしても良いように綺麗にしてから毎日来てるよ?」
今の時間帯は朝の4時……いや、まだまだ夜と言ってもいいぐらいには辺りはとても暗い。
陽はまだ無く、突き刺さるような寒さが辺り一面を覆う中、僕の彼女である下冷泉霧香は全身を震わせながらも誰もいない廊下で正座しては、学生服を着た状態で僕の部屋の前で待機していたのであった。
「……こんなに震えて……」
「気にせんと。好きでやってことやさかい」
彼女が早朝からこうして僕の部屋の前で待ち伏せをしているのは前々から知っていたが、僕の女装が完璧かどうかを判断する為という目的を昨日知ってしまった僕は寒さで震える彼女を捨ておくことが出来なかった。
結果として、僕は朝5時ではなく朝の4時に女装を終わらせて、霧香先輩を廊下に居座らせる前に部屋に帰らせようとしたのだが、彼女の愛は僕の愛を優に超えていたのであった。
「……僕の部屋に入ってください。ストーブはありますので」
「いいの? じゃあお邪魔するわ。んー! あったかーい!」
「何か暖かい飲み物でも飲みます?」
「飲む飲むー。ほな僕が準備するさかい座っとって。ゆーくんはコーヒーでいいよね?」
「僕が準備しますので座ってください。霧香先……霧香ちゃんは飲み物は何がいいですか」
「ゆーくんの大好きな飲み物でえぇよ? 別々のモノを準備するのもえらい手間やろ? そういう訳で僕に任せて? ゆーくんは座って、な?」
「いえいえ、霧香ちゃんのほうこそ」
「いやいや、それはゆーくんの方やってば」
「……」
「……」
「霧香先輩」
「霧香ちゃんって言わへんと無視すんで」
「まだ慣れないので霧香先輩で」
「……しゃあない。早う慣れておくれやす。で? 何?」
「僕が言えた道理ではありませんけれど、霧香先輩って結構頑固ですよね」
素の彼女を知った後だからこそ、こうして口に出せる訳なのだけれども、下冷泉霧香は想像以上に頑固だった。
今まで変態的な言動を繰り返していた彼女は自分のペースを他者に握らせないように振る舞っていたが、もしかするとそれも彼女の素だったのかもしれない。
日本西部の女性は色々と強い……特に大阪のおばちゃんなんて最強生物……だとはよく小耳に挟むけれども、京都で多感な時期を過ごしてきたのであろう先輩はそれはもう色々と強かった。
「……頑固な女の子は、ゆーくん嫌い?」
「好きですが」
「……えへへ」
一体全体何なんだこの可愛い生物。
いつもなら絶対に見せないようなそんな砕けた表情で、心の底から信頼していると言わんばかりの柔らかい笑みを向けられたその瞬間に僕の心臓は1つから100個ぐらいに増えてしまう。
「んー。でもこのままやと埒が明かんしなぁ。もういっそ、各々でお互いの飲み物作るっていうのは?」
「それしか解決策がなさそうですね」
「やろ? 世界で一番美味しいコーヒー作ったる」
「じゃあ僕は美味しい緑茶を作れるよう尽力します」
「もー。また謙遜して。やーなるわ、もー。ゆーくんの作る緑茶はいつも美味いやんか」
厨房にある施設を使う為に廊下に一旦出る僕たちだが、霧香先輩は何の恥ずかし気もなく僕の腕に絡みついてはすりすりと自分の頬を擦り付けている……それも歩きながらで、だ。
歩きづらい事この上ないのだが、先ほどまで身体の芯まで冷え切っていたであろう彼女の事を思うとそんな事は思っていても口には出せないし、こうして遠慮なく甘えてくれる彼女の事がとんでもないほどに愛おしくて溜まらない。
どうにも僕は自分が思っている以上に彼女のことが好きで、彼女という人物に惹かれていたのかもしれない。
その後、僕たちは各々で暖かい飲料を準備してから僕の部屋に蜻蛉帰りし、同じ布団に毛布で身体を包みながら朝の5時まで他愛のない話で盛り上がっていて、1時間がまるで2・3分ぐらいの速度で過ぎ去ってしまったのであった。
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