今は素直に……

「着きましたよ」


 リディアの気遣いに心を痛くしながらも、流石に無視をするわけにはいかないから、適当に四人で話をしていると、空気に徹していた御者からのそんな声が聞こえてきた。


 馬車の窓から顔を覗かせると、そこは俺がよく知っているリディアの家の風景だった。

 御者にルラがリディアの家の場所を説明していたのは知っていたけど、よくこんなに正確に伝えられたな。

 ……やっぱり俺の妹は天才ってことか。

 

「ん、もう着いたの」


 俺がそんなことを思っていると、リディアは残念そうにそう呟いていた。


「また明日も学園で会えるでしょ?」


 すると、ルラがすぐにリディアにそう言った。

 ……兄として、ルラが心優しい子に育ってくれたのは本当に嬉しいけど、違う。違うんだよ。今じゃないんだよ。


「私も、もうリディアさんのことは友達だと思っていますし、明日もすぐに会えますよ」


 俺のそんな思いなんて当然みんな知る由もなく、ノノまでそんなことを言い始めた。

 ……ルラと同じく、ノノも普通にいい子なんだよな。……うん。でも、ルラと一緒で、今じゃないんだよ。


「……うん。ありがとう、ルラ、ノノ」


 リディアは本当に嬉しそうにそう言って、俺の方に視線を向けてきた。

 ……悪いとは思うけど、俺は何も言わないぞ?


「……ノヴァは、友達だと思ってくれてない?」


 いくら悲しそうに言われたって、俺は何にも言わないからな。


「……少なくとも、私はノヴァのことも、友達だと思ってる。……ノヴァは、違う?」


 だからなんで、そんな顔でそんなことを言ってくるんだよ。

 ルラとノノが友達だって言ってくれたんだから、俺のことはもういいだろ。


「……………………友達、だよ」


 罪悪感に打ち勝つことが出来なかった俺は、そう言った。言ってしまった。

 すると、俺の言葉を聞いたリディアは、パァ、っと顔を笑顔にして、頷いてきた。


 …………主人公のとはいえ、ヒロインがこんな笑顔を一瞬でも俺に向けてくれるのなら、悪くは無い、のかな。

 ……リディアと友達になってしまったことによって、イベントに巻き込まれるのはもう確定事項となってしまったけど、リディア本人に関しては主人公が守ってくれるだろうし、俺はルラとノノにさえ集中してればそれでいいはずだしな。

 まぁ、どうせルラとノノを守るのはあの時から決めてた事だし、結局、やることは変わらないはずだ。

 ……リディアと友達にさえならなければ巻き込まれなかったことではあるけど、リディアだって好きであのイベント……というか、あの事件に巻き込まれる訳じゃないんだ。

 こんなに良い奴とルラとノノ、そして俺含めて三人で友達になれたってことを今は素直に喜ぼう。

 変なやつが二人と友達になるより、よっぽどいいはずだ。

 

「みんな、また明日」


「うん。また明日」


「はい、また明日です」


「……また明日」


 リディアは馬車を降りて、家に帰っていった。

 表情は乏しい方だけど、その様子は後ろ姿からも分かるくらいに嬉しそうだった。

 

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