様子がおかしい主人公

 なんで俺の目の前には主人公とその幼馴染が居る? おかしくないか? いやマジで。

 俺が弱体化していないから、何かが狂ったのか? ……いや、俺と……ノヴァと主人公に関わりなんてないし、そんなのはありえないし、意味が分からない。

 ……単純な気まぐれか? 

 まぁ、もうプログラムされたキャラクターって訳じゃないんだ。

 そう考えると、気まぐれっていう可能性も全然無くはないのか。


「兄さん、どうしたの?」


「……なんでもないよ」


 正直に言ったところで、最初のノノみたいに……いや、あの時のノノ以上に心配されるだけだろうから、俺はそう言った。


「……ほんと?」


「ほんとだよ」


 どうせ関わる気は無いんだし、主人公達が前に座ってるからってなんだ。

 気にしなかったらいいだけだ。

 

「……?」


 気にしなかったらいいだけ、とは思ったものの、前に座っているんだから、視界にはどうしても入ってしまう。

 だからこそ、気がついたんだが、心做しか主人公の顔、青くないか? ……体調でも悪いのか? いや、でも、主人公だし、入学式で体調が悪くなるとかあるのか?


「エクス、大丈夫?」


 そんなことを思っていると、主人公の隣に座っていた幼馴染……メインヒロインが心配そうに主人公……エクスにそう聞いていた。

 ……やっぱり、俺の気のせいじゃないよな。

 主人公の顔、なんか青いよな。

 

「だ、大丈夫……じゃないかも。ちょっと、体調が悪いから、外の空気、吸ってくるね」


「え、う、うん。私も着いていこうか?」


「い、いや、大丈夫。ネアはここに……や、やっぱり、着いてきてもらおうかな」


 今、なんか俺の方を見て、言おうとしていた言葉を変えなかったか?

 ……仮にそうだとしたら、なんでだ? 俺に怯えている? ……あぁ、そうだ。それが一番しっくりくる。……うん。尚更なんでだ?

 俺、主人公に対して何もしてないよな? 顔だって貴族の連中ですら知らないのに、平民の主人公が知っているはずがない。

 なんでだ……?


 どれだけ考えても、答えが出ることはなく、そのまま、学園長が前に立ち話し始めてしまった。

 ……まぁいいか。どうせ分からないんだし、考えるだけ無駄だわ。

 関わりたくない人間が自分から離れてくれたことを今は喜んでおこう。

 そっちの方が絶対いい。




​───────​───────​───────

 Side:エクス


 恐怖心から、せっかくの入学式だったっていうのに、思わず飛び出してしまった。

 なんで、なんであんなところに、最強と言われたラスボスがいるんだよ!

 

 俺はあのゲームをプレイしたことがある訳じゃない。

 ただ、主人公とラスボスの顔だけは知っているだけの人間だ。

 ネットを色々と漁っていると、嫌でも目に入るくらい人気なゲームだったんだ。

 だからこそ、知っていた。

 友達だって、そのゲームをやっていない俺の前ではあんまり話さなかったけど、ラスボスのことに関してだけは、このラスボスは弱体化しているくせに強すぎると何度も愚痴られた。

 だからこそ、知っていたんだ。

 

「エクス、大丈夫なの?」


 どうしたらいい? これから、どうしたらいいんだ? あの席に戻る? 無理だ。

 今の俺じゃあ、絶対に勝てない。

 よく知らないけど、廃ゲーマーだったあいつが最強過ぎると愚痴を言ってくるくらいの最強キャラなんだ。

 序盤の……しかも戦いなんてなかった日本人……俺が中に入り込んだ主人公じゃあ勝てるわけが無い。


「ねぇ、エクスったら!」


 適当に生きてれば、なんだかんだ強くなって、なんだかんだラスボスを倒せると思ってたけど、こんな序盤に出会うことになるなんて、聞いてないんだよ!

 クソっ、こんなことになるのなら、俺もあのゲームをやっておくべきだった!


「もういい! エクスなんて知らない!」


 ネアが何かを叫んでる気がするけど、今はそれどころじゃないんだ。

 俺の命に関わることなんだ。どうにか、しないと。

 早く、強くならないと、殺されてしまう。

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