脱出

 あれから二人のどっちでもいいから、俺と反対方向で寝てもらおうと色々と説得を試みたんだけど、ダメだった。全く、ダメだった。

 だからこそ、俺は今、二人に左右から抱きつかれていた。

 ……うん。なんでこうなった?


「ノヴァさまぁ……」


「んぅ……兄さん……」


 可愛いんだけどさ、可愛いんだけどさ!

 ……はぁ。取り敢えず、もう二人は眠ったみたいだし、起こさないようにゆっくりと俺から離れさせよう。

 そう思って、まずはルラの方を先に離れさせることにした。

 別にノノと比べてルラの方が好きじゃないから、みたいな理由ではなく、単純に胸の大きさから、俺の心の余裕のためにもルラの方が早く離れて欲しかったからだ。

 好きなレベルでいったら、どっちもめちゃくちゃ好きだ。

 ルラは妹として、ノノは異性として、だけど。


「……ルラ? 起きてないん、だよな?」


 そんなことを思いながらも、ゆっくりと抱きついてきているルラの腕を解いていたんだけど、全く離れてくれない……どころか、むしろ抱きついてきている力が強くなってないか? と思って、俺は小さくそう言った。


「……」


 返事は無い。

 やっぱり、寝てるはず、だよな。

 ……寝てるのに、なんで離せないんだよ。

 いや、もういい。ノノの方から、先に離れさせよう。

 片方でも抱きつかせるのをやめさせることが出来れば、抜け出すのはかなり楽になるからな。


「…………ノノ、起きてるのか?」


 そう思って、ノノの方を離れさせようとしたんだけど、ルラ同様、ノノもむしろ力が強くなって、離れさせることが出来なくなっていた。


「……」


 ノノの方も、ルラと同じで返事は無い。

 ……これ、もしかして、もうどっちかを起こすしかないのか? 

 起こすんだとしたら、ノノ、だな。

 ノノの方が何も言わずに俺を行かせてくれそうだし。

 

「はぁ、しょうがない。ノノ、起きろ」


 ゆっくりと、ルラが起きないように、俺はノノにそう言いながら、軽く体を揺らした。もちろん、ルラの方に揺らしている反動がいかないように。


「…………ノヴァ様?」


「ごめんな、いきなり起こして。でも、なるべく静かにしてくれ。ルラはまだ寝てるから」


「はい、分かりました。でも、どうしたんですか? 私、まだ眠いですよ、ノヴァ様」


 眠そうに目を擦りながら、ノノはそう聞いてきた。

 そんな様子を見ると、起こしてしまった罪悪感が再び俺の中に生まれた。

 

「俺は、ちょっと、行かなきゃならないところがあるんだ。だから、離してくれるか?」


「……トイレですか?」


「……あぁ、うん。そうだよ」


 全然違うんだけど、どうせすぐ終わらせる予定だし、俺はまぁいいかと思って、頷いた。

 

「分かりました。私がベッドから降りたら、大丈夫ですか?」


「あぁ、多分それで大丈夫だよ」


 すると、ノノはベッドから降りてくれた。

 それを確認した俺もベッドから降りようとしたんだけど、何故かルラの俺を抱きしめてきている力がさらに強くなった。


「……ん、兄さん? どこ、行くの?」


 そして、そんな声が聞こえてきた。

 

「お、起きたのか、ルラ。……ただのトイレだから、まだ眠っててもいいんだぞ? 直ぐに戻るからさ」


「……ほんと?」


「ほんとだよ」


 そう言うと、ルラはそのまま、眠りについていった。

 ……良かった。

 

「それじゃ、行ってくるよ、ノノ」


「はい、直ぐに戻ってきてくださいね?」


「分かってるよ」


 そう言って、俺は部屋を出た。

 家にかけた時と同じように、バレないように部屋にも結界を張りながら。

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