これじゃあ抜け出せないんだけど

「に、兄さん、そろそろ、寝ない?」


 俺の部屋で適当な時間を過ごしていると、緊張した面持ちでルラがそう聞いてきた。


「確かに、もうそろそろ寝るような時間か」


「う、うん」


「俺はいいけど、ノノももう寝るってことで大丈夫か?」


「は、はい、私はいつでも大丈夫です」


 ノノも緊張したように、そう言ってきた。

 ……なんか、もう寝るとなると、俺も少し緊張してきたけど、大丈夫だ。俺はどうせ二人が寝静まったらベッドから抜け出すんだからな。

 そこまで緊張することなんて無いはずだ。


「それじゃあ、寝るか」


「う、うん」


「は、はい」


 そうして、俺は二人がベッドに入るのを待ってたんだけど、なかなか二人はベッドに入ってくれなかった。

 いや、寝るんじゃないのか?


「ベッド、入らないのか?」


「? 兄さんが先に入るんじゃないの?」


「ノヴァ様が先に入るんじゃないんですか?」


 俺が先に入ったら、真ん中に……は別にならないか。

 普通に奥に奥にって感じで俺は端っこになるのか。

 なら、大丈夫かな。

 真ん中になったら抜け出しにくいからな。


「あー、じゃあ、俺が先に入るか」


 そうして、ベッドの中に入ると、二人もベッドの中に入ってきた。

 ……俺の左右に、俺を挟むようにして。


「あの、二人とも?」


「な、なんですか、ノヴァ様」


「な、何? 兄さん」


「何って……なんで俺が真ん中なんだよ」


 これじゃあ二人が寝静まったとしても抜け出しにくいし、なにより、二人を起こしてしまうだろ。


「なんでって、ノヴァ様が真ん中じゃないと、絶対に私がノヴァ様と反対側に眠ることになっちゃうからですよ!」


「いや、別に決まっては無いだろ」


「決まってるんです! 絶対にそうなっちゃうんです!」


 ……なんでそんな自信満々なんだよ。分からないだろ、そんなこと。


「分かった、もうノノには言わないよ。ルラはどうだ? ノノの隣に移動してくれないか?」


 ルラなら移動してくれるだろうと思って、俺はそう言った。


「……しない」


 すると、俺の予想に反して、ルラは一言だけ、そう言ってきた。

 え? いや、なんで?


「え、えっと、ルラが移動するのが嫌なのなら、俺がノノの隣に移動しようか?」


「……ダメ。私も、兄さんの隣で寝る」

 

 そう言いながら、ルラは俺をどこにも行かせないとばかりに抱きついてきた。

 可愛い。……うん。可愛いんだけど、違うくないか? なんでそうなった?


「あ、あのな、ルラ?」


 何かノノの隣に行ってもらう言い訳を考えていたところで、ノノの方まで俺に抱きついてきた。

 ……嬉しいんだぞ? 嬉しいんだけど、今じゃないんだよ。このままじゃ本当に俺は抜け出せないぞ。


「わ、分かったよ。このままでいい。このままでいいから、二人とも、抱きつくのはやめような?」


 抱きつかれたら流石に抜け出すのなんて不可能だから、俺はそう言った。

 なのに、二人とも全く離れてくれる様子が無かった。

 待って? このままじゃ俺、終わるんだけど?  ベッドから抜け出す時、二人を起こさないといけなくなっちゃうんだけど?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る