まだ、言えない

「の、ノヴァ様、も、もう見ても大丈夫……う、嘘です! や、やっぱり見るのはダメ、です。……でも、終わり、ました」


 見るのはだめらしいが、ノノも体を洗い終えて、タオルも巻き終わったらしい。

 やっと終わった。俺はとっくの前に体を洗い終えてるから、この待ってる時間が本当に辛かったんだよ。

 だから、本当に良かった。


「……風呂、入るか」

「は、はい」

 

 そう言って、俺は風呂に浸かった。


「失礼、します」


 すると、ノノもその後に続いて、俺の隣に腰を下ろしてきた。

 見ちゃダメだ。そう思えば思うほど、俺の視線はノノの方に向かってしまい、ノノが綺麗な顔を耳まで真っ赤にしているのが分かった。

 

「……はぁー」


 それを見た瞬間、俺は思わず天井を見上げて、息を吐いた。


「の、ノヴァ様? どうしましたか?」

「違う。なんでもないんだ。ノノは気にしないでくれ」

「そう、ですか?」


 ノノのそんな言葉に俺は反応することなく、深呼吸をした。

 よし、これで大丈夫。

 そう思いながら、俺は隣にいるノノとは真反対に顔を背けた。

 こうでもしておかないと、また、ノノのことを見てしまい、同じような感じになりそうだったから。

 

「の、ノヴァ様? そ、そこまでして、見られたくない訳では無いので、そこまでしなくても、大丈夫、ですよ?」


 違う。違うんだ、ノノ。これはノノの為って訳じゃなく、俺の為なんだ。

 ノノの今の状況を見たいか見たくないかと言えば、正直に言うとめちゃくちゃ見たい。

 ただ、欲望のままにノノの方を見てしまえば、俺は恐らく、いや、確実に我慢できなくなる。だから、こうやって顔を背けてるんだよ。


「違う。これは、俺のためだ」

「そ、そんなに、私の体は見たくない、ですか?」


 俺は正直に自分のためだと言ったんだが、何故かノノは不安そうな声で、そんなことを聞いてきた。

 そんな訳ないだろ。さっきも思った通り、見たいか見たくないかで言えば、めちゃくちゃ見たいんだよ。


「…………俺が我慢出来なくなるから、見たくないんだよ」


 かなり気持ち悪いことを言ってるのは分かってる。

 でも、気がついたら、俺の口が動いてたんだよ。


「そ、そう、ですか……わ、私は、ノヴァ様になら、ぜ、全然、大丈夫、ですから」

「……そ、そうか。……いつか、ちゃんと言う」

「は、はい」


 正直に言おう。俺は、ノノが好きだ。これは恐らく、俺の……ノヴァの気持ちでもある。

 ただ、まだそんなことを伝える訳にはいかない。

 俺たちが主人と使用人、なんてのはどうでもいい。俺は親さえ怯えて会いに来ないような人間なんだ。

 少し俺がすれば、直ぐに了承してくれるはずだ。

 だったらなんで伝えないのか。

 それは単純だ。

 俺がまだ、弱体化イベント兼闇落ちイベントを回避していないからだ。

 今、俺がノノとそういう関係になってしまえば、相手に隙を見せることになってしまう。……一緒に風呂に入ってる時点で何を言ってるんだって感じかもしれないが。

 



「の、ノヴァ様、仕事がありますから、私は先に、あ、上がりますね」

「あぁ、分かった」


 あれから、俺たちは無言だった。

 そして、そんな沈黙を破ったのはノノのそんな言葉だった。

 俺はノノが上がるまで、上がる気がなかったから、正直助かった。

 もう、風呂に浸かっていたから良かったものの、俺はノノに大丈夫、と言われてから、とても立てるような状況じゃなかったんだ。

 何回かそうなりそうになってはいたんだが、俺は最強の精神力で何とか抑えてたんだ。でも、あの言葉でとうとう我慢出来なくなってしまっていた。

 こればっかりは、生理現象だし、仕方ない、よな。むしろよくここまで我慢した方だ。

 ……収まったら、上がるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る