あれ? 素数ってなんだっけ?
「は、はい。わ、分かりました」
俺が背中を洗ってくれと頼むと、ノノは直ぐに頷いてくれて、ぺたぺたと後ろから俺にノノが近づいてきてる足音が聞こえてきた。
余計なことを考えるな。無心だ。いや、素数だ。こういう時、素数を数えればいいって聞いたことがあるぞ。……あれ? 素数ってなんだっけ? いや、まて、よく考えろ。絶対に分かる。なんなら、素数を数えればいいって考えた時、俺は素数が何か分かってたはずだ。
この状況のせいでど忘れしたんだ。思い出せ、思い出せ。
「の、ノヴァ様、失礼、します」
俺が素数のことを思い出そうとしていると、いつの間にかノノがすぐ後ろにいて、そう言いながら暖かく濡れ、石鹸のついたタオルを俺の背中に押し当ててきた。
完全に意識を素数に持っていかれていた俺は、いきなりのことにびっくりして、思わず背筋をピンッ、と伸ばしてしまった。
「う、動かしますね」
「あ、あぁ」
落ち着け。落ち着くんだ俺。俺は最強だ。最強なんだ。こんなことで、狼狽え……はするけど、それだけだ。
無だ。無になれ。何も考えるな。タオル越しでも分かるノノの小さな手のことなんて、考えるんじゃない。
「んしょ、の、ノヴァ様、これで終わりです。前は自分でやってください、ね?」
「あぁ。分かってる」
背中を洗い終わったみたいだから、俺はそう言いながら、ノノの方を見ずに、手を後ろに回して、ノノから体を洗うタオルを受け取った。
もちろん、ノノの体に触れてしまうなんてミスは犯していない。
「……ありがとう。ノノも自分の体、洗ったらいいからな? そっちは見ないから」
ノノは女の子だ。当然、タオルを胸元まで巻いているし、こう言っておかないと、体を洗うことなんて難しいだろうしな。
男なら、腰のところにしかタオルは巻いてないし、簡単に洗えるんだがな。
「お気遣い、ありがとうございます。……の、ノヴァ様、信じます、からね?」
「信じてくれ。絶対にそっちは見ないと約束する」
自分の心に誓うと同時に、ノノに向かってそう言った。
すると、その瞬間、後ろからビチャン、と何かを濡れた地面に落とすような音が聞こえた。
状況的に考えて、どう考えてもタオルだ。ノノが体に巻いていたタオルだ。
それを理解した瞬間、早くも俺の誓いは揺らぎそうになっていた。
いや、だってこればっかりはしょうがないだろ!? 普通、そんな音を立てるか?! こんなのまるで「ノヴァ様! タオルを取りましたよ! 今、私は生まれたままの姿ですよ!」って言ってるようなものじゃないか!
「すぅーふぅー」
一度深呼吸をして落ち着こう。
ノノは俺を信用して、そんな行動をしてくれたんだ。
だったら、その信用を崩す訳にはいかないだろう。
さっきまで考えていたくだらない雑念を捨て、俺はノノに渡してもらったタオルを持って、前を洗い始めた。
ノノ、早く洗い終えて、タオルを早く体に巻いてくれ、と祈りながら。
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