俺、最強のはずなのになぁ…

 風呂を上がると、ノノはもうそこには居なかった。

 まぁ、ノノが居たらまだ上がってなかったけどな。

 

 そしてそのまま、ノノが用意してくれていたタオルを使って体を拭いた。

 

 体を拭き終わった俺は、自分で用意していた着替えを着て、自分の部屋……に向かう前に、リビングに向かった。

 風呂上がりって理由もあるけど、ノノと一緒に入ったから、妙に緊張して喉が渇いてるんだよ。だから、水を飲む為にだ。

 魔法で水自体は出せるけど、やっぱりコップがあった方が飲みやすいしな。


「あ、に、兄さん、もう上がったんですね」


 そう思いながらリビングに入ると、ルラが背筋をピンとして座りながら、紅茶? を飲んでいた。


「あぁ、ルラももういつでも入っていいからな」

「はい。……兄さん、一つ聞いてもいいですか?」


 ルラに一言、言って適当に水分補給をするためにコップを取りに行こうとしたんだが、何か俺に聞きたいことがあるのか、呼び止められてしまった。

 可愛い妹がそう言ってるんだ。俺の足は当然直ぐに止まった。


「もちろんいいよ。可愛い妹の聞きたいことなら、なんでも答えるよ」

「か、可愛っ……そ、そんなことで誤魔化されないからね!」


 正直に思ったことを言うと、何故かルラは顔を赤らめながら、そんなことを言ってきた。

 誤魔化す? こんなに可愛い妹に何を誤魔化す必要があるんだよ。


「さ、さっきノノとあったんですよ! そうしたら、ノノの髪の毛が濡れていたんですよ! おかしいですよね? 兄さんが入ってるはずなのに、ノノがお風呂ろ上がりなのはおかしいですよね?」


 ……いくら可愛い妹でも、誤魔化さないといけないことはあるよな。うん。

 

「私も、最初は兄さんがノノにお風呂を譲ったのかと思いました。でも、兄さんもお風呂上がりですよね? どういうことか、説明、して貰えますよね?」


 まさかノノと一緒にお風呂に入っていたなんて言う訳にはいかないから、とにかく何か誤魔化さないと、と思っていると、ルラは続けてそう言ってきた。……俺に笑顔を向けてきながら。

 可愛い。間違いなく、可愛いとは思う。……でも、今は、今だけは、その笑顔が少し怖かった。

 お、おかしいな〜? 俺、最強なはずなのになぁ。


「兄さん? ねぇ、どういうことなんですか? まさか、一緒に入った、なんてこと無いですよね?」

「そ、そんな訳ないだろ? 俺だって一応貴族なんだから、男女で風呂になんか入るわけないだろ」


 嘘です。入りました。しかもめちゃくちゃ興奮しました。本当にごめんなさい。

 

「そうですよね? 本来なら、そうですよね?」

「あ、あぁ」

「私がノノに会った時、何も聞かなかったと思いますか?」


 あ、あれぇ? もしかして、ノノに聞いてたのか? その上で、俺が正直に話すかどうかを試してたと?


「る、ルラ……わ、わざとじゃなかったんだよ」


 こんな言い方をしたら、風呂の中で何かがあったみたいになるけど、そういう事じゃなくて、単純に一緒にお風呂に入ろうと誘った話だ。

 

「やっぱり、一緒に入ってたんですか」

「え……の、ノノに聞いたんじゃ……」

「ノノより先に、兄さんに聞いておこうと思ってたんですよ。兄さんが言ってくれなくても、ノノは態度に出ますから」


 ……やばい。何か、何か言い訳をしないと。


「兄さん? それで、どういうことなんですか?」

「……る、ルラは今日も可愛いなぁ」


 なんの言い訳も思いつかなかった俺は、無駄にいい身体スペックを活かして、ルラに近づいて、抱きしめるように頭を撫でた。

 普通の男女でこんなことをいきなりしたら、絶対に気持ち悪がられるだろうけど、兄妹なんだから、ギリギリ許されると信じたい。

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