ルラが居るから
「悪い、ルラ。遅くなった」
ルラを追いかけてリビングに入るなり、俺はそう言った。
「もう、いいですよ、お兄……兄さん。それより、早く食べよ?」
お兄様って呼びそうになってたのに、兄さんに戻してくれたな。
俺はその事実に少し嬉しい気分になりながら、俺の夕食が置いてあるルラの対面に座った。
そして、お互い同時に夕食を食べ始めた。
「……」
一口食べた瞬間、俺はルラの方をチラッと覗き見たけど、特にルラは特に変な反応は見せずに、嬉しそうに食べていた。
そんなルラを見てると、心が温かい気持ちになってくる。……ただ、俺の食事に毒が入ってた事実に変わりは無い。
「兄さん、美味しいですか?」
「ああ、ルラと一緒に食べてるから、美味しいよ」
「ッ、そ、そんなこと言って、またからかってる……」
そう言うと、ルラは顔を赤らめながら、そう言ってきたけど、これに関してはかなり事実だ。
だって、普通に考えて、毒入りの食事を美味しく食べられると思うか? 有り得ないだろ。だからもし、この場にルラが居なかったら、俺はこんな飯食ってなかったよ。
いくら俺の体が異常で毒が効かないとはいえ、な。
毒が入ってることは不快だが、まぁいい。
妹は可愛いし、原作通りに進んでるってことも分かったし、俺はやるべきことをするだけだ。
今から犯人を取っ捕まえてやってもいいが、そいつの単独犯ってわけじゃないし、ダメだな。
そんなことを思いながらも、ルラに余計な不安を与えない為に、俺はさっさと夕飯を食べた。
「……兄さんはこれから、どうするんですか?」
……夕飯を食べ終わったから、今から何をするのか? って意味で聞いてるんだよな。
「風呂に入って、もう寝ようと思ってるな」
明日はダンジョンに行く予定だし、いくら俺が強いとはいえ、体調は整えておきたいし。……まぁ、体調を整えておきたいなら、毒入りの食事なんか食うなって話だけど、それは仕方ない。可愛い妹を不安がらせる訳にはいかないからな。
「す、少しだけでいいから、一緒にいても、いい?」
「……風呂でか?」
「そ、そんな訳ないでしょ! に、兄さんのバカっ!」
ごめん。今のは俺が悪いか。
「冗談だよ。風呂に入った後でいいなら、少し話そうか」
「う、うん。わ、私も、お風呂に入った後に行くね」
少しでも早く寝て体調を整えておきたかったが、妹の頼みなら仕方ないな。
……ノノから聞く限り、少し前までは俺がルラのことを嫌って避けてたみたいだしな。
「分かった。じゃあ、俺は風呂に入ってくるから、後で俺の部屋に来てくれ」
「えっ、に、兄さんの部屋、ですか?」
「嫌だったか?」
「い、いえ、大丈夫、です」
なんか、ルラが妙に顔を赤らめてるけど、どうしたんだ?
確かに、ただの男女なら、自分の部屋に異性を誘うなんて変なことも考えてしまうけど、俺たちは兄妹だろ? だったら、特に何も問題ないと思うけど。
まぁいいか。ルラも嫌じゃないっぽいし。
そう思いながら、俺はリビングを出たんだが、リビングから出たところで気がついた。
俺の着替えとかって、どうするんだろ。
「あ、ノノ」
ノノ以外の使用人に話しかけるのは嫌だったから、ノノを探そうと思ってたんだけど、ちょうど俺の目の前をノノが通りかかったから、声を掛けた。
「ノヴァ様! どうか致しましたか?」
俺が声を掛けると、ノノは嬉しそうに俺の元に寄ってきてくれて、そう聞いてきた。
……犬とか飼ってたら、こんな気分なのかな。頭を撫でたくなるけど、今はやめておこう。
「風呂に入ろうと思ってるんだが、俺の着替えってどこにあるんだっけ?」
「……? やっぱり治癒士、呼んできますか? いつも自分の部屋から持ってきてるじゃないですか」
「あー、そうだったな。分かってるよ。一応、聞いただけだから、治癒士は要らない」
分かってるんだったら聞く意味は分からないが、ノノは「そうなんですか?」と言って、一応納得してくれたみたいだ。
……自分で言っておきながら、ノノの事が心配になってくるな。俺がノノの立場だったら、絶対何かおかしいと思うだろうし。
「ありがとな、ノノ。俺は風呂に入ってくるよ」
「はい、分かりました。タオルの準備をしておきますね」
「頼んだ」
タオルは準備しておいてくれるみたいだし、そう言って、俺はノノに向かって背を向けたんだが、その瞬間、大事なことを思い出した。
「あ、の、ノノ!」
「はい? どうか致しましたか?」
「……お風呂場ってどこ、だっけ」
「……治癒士、呼んできます」
俺があまりにかっこ悪くて、ふざけたことを言うものだから、ノノはそう言って俺を置き去りにどこかに行こうとする。
「ま、待て待て待て、違う。違うんだよ」
「……何が、違うんですか?」
「あ、れだ。あれ、あれあれ」
「……」
やばい。
俺が言葉を発する度に、ノノの視線が悲しいものを見るようなものになっていくんだけど。
何とかしないと。
「……い、一緒に、入るます?」
「は、ぇ?」
「あ、いや、待て、今のも違くて、頭がこんがらがってて……」
「べ、別にいい、ですよ? こ、子供の頃は、一緒に入ってたんですし、せ、背中を洗い流すくらいなら、い、いい、ですよ?」
……は? いや、まさかの了承の返事を貰えたんだが。
頭がこんがらがって、失言をしたと思ったけど、逆に俺がノノを風呂に誘おうとしてたから、変なことを聞いてたみたいになって、良かった、のか?
「あ、あー……入る、か?」
「は、はい……わ、私、着替え、持ってきます」
「あ、あぁ」
俺が頷くと、ノノは顔を赤らめながら、恐らく着替えを取りに、俺から離れていった。
……どうしよう。後戻り、出来なくなったんだけど。……いや、別に何かをするつもりとかは無いんだが、一応、俺たちはかなり、そういう年頃だよな。……誤魔化す為には仕方なかった。だから、何もしない。よし、大丈夫だ。
先に風呂場に行って、さっさと体を洗っておこう。湯は俺が直ぐに沸かせられるし、さっさと洗って先に入っておこう。
そうすれば、少しはお互いの羞恥心を紛らわすことが出来るはずだ。……俺が湯に浸かってれば、ノノの方を見ないようにすることも出来るしな。
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