俺は強いから

 帰ると決めた俺は、行きと同じく5分くらいで家に帰ることが出来たんだが、やっぱりかなり暗くなってきてる。

 ……まぁ、大丈夫か。ノノもルラも、俺の事なんて心配してないだろ。元の俺ならともかく、今の俺はノヴァで、最強なんだから。


「ただいまー」


 呑気にそう思いながら、そう言って俺は屋敷の中に入った。

 

「の、ノヴァ様ぁぁぁぁぁ」

「うわっ」

 

 すると、突然ノノが顔をぐちゃぐちゃにしながら、帰ってきたばかりの俺に抱きついてきやがった。

 ……え、一応、俺とノノって主人とメイドだよな? いや、別にいいんだけど。

 

「ノノ、一旦、落ち着け。どうした? 何かあったか?」

「に、兄さんがこんなに遅く帰ってくるから、私たちは心配してたんだよ!」


 遅くって……いや、まぁたしかに、少し遅くなってしまったのは事実だけど、俺はノヴァだぞ? 少しくらい遅くなったって、心配なんてしなくても大丈夫だろ。


「遅くなったのはごめん。ただ、俺は強いから、そんなに心配しなくても、大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないんですよ! ノヴァ様!」

「そういう問題じゃないの! 兄さん!」


 これからも遅くなることがあると思ったから、俺は二人に安心して欲しくて、そう言ったんだけど、何故かそう言って、怒られてしまった。

 ……いや、なんでだ? 俺が強い……というより、強すぎることは二人だってよく知ってるはずだろ。

 

「はぁ。もういいですよ、お兄様。……ですが、次、またどこかに行くことがあったら、もっと早く帰ってくるか、ちゃんと遅くなることを言っておいてください」

「そうですよ! 私たちが心配しますからね!」


 落ち着いてきたのか、ルラは一番最初にあった時と同じような口調でそう言ってきた。

 多分、感情が昂ったら、素が出るんだろうな。……と言うことは、そんな素が出るくらい、俺の事を心配してくれてたのか。


「分かった。今度からは、遅くなりそうならちゃんと最初に言っておくよ。後、ルラは普通に喋ってくれてもいいからな」

「ッ、べ、別に、私はこれが普通だから」

「あぁ、そうだな」


 そう言うルラの口調は、さっきとは違うものになっていたから、俺は頷いた。


「ノヴァ様、御夕飯の準備がから終わっていますが、どう致しますか?」


 すると、ノノが「かなり前」と言う部分を強調しながら、そう言ってきた。

 いや、ごめんて。わざとでは無いんだよ。


「食べるよ」

「……だったら、私も兄さんと食べる」


 ん? ルラもまだ食べてなかったのか? ……朝食の時の感じからして、てっきりもう食べてるのかと思ってたんだけど。

 

「……に、兄さんが帰ってくるのが遅いから、心配で食べてなかったんですよ」

「そうですよ! ルラ様はノヴァ様と一緒に夕食を食べたくて、ノヴァ様を待っていたんですよ!」

「ちょ、の、ノノ! 余計なこと言わないで!」


 ……あれだな。ノノには、余計なことを知られないようにしないとな。

 と言うか、ルラは俺の事を待ってくれてたのか。 

 兄妹仲が良くなってきているようで何よりだ。


「俺もルラと食べたかったんだ。冷め……てはいるだろうけど、早く食べよう」


 冷める前にって言おうとしたけど、よく考えたら、さっきのノノの言い方的に冷めてるよな。

 普通の貴族だったら、こんなことはありえないんだけど、俺は普通じゃないし、仕方ない。

 今からでも俺が作って欲しい時に作ってくれって頼みに行けば直ぐにそうしてくれるんだろうが、そんなことをして、俺の弱体化イベントが早くなったら嫌だから、このままでいい。大丈夫だとは思うけど、一応な。

 

「ッ、に、兄さんのせいで、私のも冷めちゃったんだから、早くしてよ」


 ルラはそう言って、夕食が置いてあるであろうリビングに向かって行った。

 ……やっぱり、ルラの飯も冷めてるのか。……ルラなら、俺とは違って普通に作って欲しい時に作ってもらって貰えるだろうし、そうしてもらえばいいのに。

 いや、違うな。いつもは知らないが、少なくとも今日は、ルラは俺と一緒に食べたかったのか。


「ノノ、行ってくるよ」

「はい! 私は仕事をしていますね!」


 ノノに一言そう言って、俺は少し急ぎ気味でルラが待っているであろうリビングに向かった。

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