早いな。思ってたより、ずっと
「ご馳走様」
朝食を食べ終わった俺は、手を合わせながら、そう言った。
……残念なことに、何か返事が返ってることは無かった。
なぜなら、もうとっくに妹は朝食を食べ終わって、顔を赤らめながら自分の部屋に戻ってしまったからだ。
まぁ、取り敢えずはいいかな。……少しは妹との仲も良くなったと思うしな。
食器、持っていくか。
……一応俺って貴族なんだけど、誰もいないし、妹も自分で持っていってたし、そういう家なんだろ。
良かった。俺の妹がよく想像するタイプの傲慢な貴族令嬢じゃなくて。
「ノヴァ様〜! 酷いですよ! ノヴァ様のせいで、メイド長のカレンさんにこってりと怒られたんですからね!」
食器を持っていこうとしたところで、ちょうど、ノノがノックもせずにリビングの扉を開けて、入ってきた。
……そういうところなんじゃないか? まぁ、さっきのは、俺も少しは悪かったかもしれないが、相手がカレンなら、結局同じような結果になっただろうし、諦めてくれ。
「はいはい、それより、食器を持っていくのを手伝ってくれ」
「……ノヴァ様も持っていくんですか? 私がやっておきますけど」
「気持ちはありがたいけど、俺も持っていくよ」
妹も自分で持っていってたし、メイドの仕事を取ってるってことにはならないだろ。多分。
……仮に、仕事を取ってることになってたとしても、ノノなら大丈夫だと思うし。
それに、妹が自分で持っていってたのに、兄の俺が何もしないのは気持ち的にな。……貴族なんだから、それでもいいんだろうけど。
「分かりました。一緒に持っていきましょう」
「あぁ」
そう言って、俺が持たされた食器は皿一枚だった。
……いや、別にいいけどさ。……聞きたいことだってあるし。
「そういえば、俺の妹のことなんだけどな」
「はい、ルラ様がどうかしたんですか?」
お、妹の名前を聞き出せたぞ。
ルラっていうのか。
「世界一可愛いだろ」
「……ノヴァ様、今度はいきなりシスコンにならないでくださいよ。……それに、昨日までは、嫌ってたじゃないですか」
え、嫌ってたの? ノヴァって妹のこと嫌いだったの? ……マジか。
「ノノの勘違いだろ」
「えー、そうですかー?」
「そうだよ」
「んー、まぁ確かに、昔は仲よかったですもんね」
昔は仲良かったのか? ……じゃあなんで今は悪いんだ?
……まぁ、取り敢えずは妹の名前も聞けたし、後聞くことは一つだな。
「ノノ、俺たちって何歳だ?」
確か、俺……と言うか、ノヴァとノノ……ノヴァと一緒に育ったといっても過言では無いメイドはノヴァと同い年だったはずだからな。
「? 何言ってるんですか? もう私たちは14歳で、ノヴァ様は来年から学園に通うことになるんですよ? ノヴァ様の大好きなルラ様と一緒に」
「……早速俺のシスコンを弄るな」
そんな軽口を叩きながら、俺は内心で少し焦っていた。
だって、ノヴァの弱体化イベントが起こるのが、ノヴァが14歳の頃だから。
ノヴァは最強。原作知識さえあれば、守りたい人を守るのなんて、余裕だ。
そんなことは分かってる。ただ、どうしても、不安になってきてしまう。
ダメだ。ネガティブになるな。一旦、落ち着こう。
俺は強い。……まだ、ノヴァになったと気がついてから戦ったことはないが、分かるんだ。もし、仮に今、ここにドラゴンが攻めてきたとしても、絶対に勝てると言い切れる。
体が、ノヴァの体が、戦い方を覚えてるんだ。
スキルの方は原作知識でノヴァの持ってるスキルくらい覚えてるし、大丈夫なんだ。
「ノヴァ様? どうしましたか?」
「いや、なんでもない。それより、俺の誕生日って何日後だ?」
「……治癒士、呼びますか?」
俺がそう聞くと、ノノは本当に心配そうな目で俺を見ながら、そう聞いてきた。
「呼ばない。それより、早く教えてくれ」
「ちょうど、30日後ですけど」
「そうか」
早いな。思ってたより、ずっと早い。
「ノノ、俺はちょっと出掛けてくるよ」
「ついて行かなくても大丈夫ですか?」
「森に行くつもりだから、一人で行く」
「ノヴァ様が森、ですか?」
「ちょっと強くなりたくてな」
「……今でも十分すぎると思いますが」
正直に言うと、俺も強さ的には十分だと思うぞ? 今でも圧倒的に強いし、それこそ、最終的な主人公と同じ……いや、それ以上かもしれないんだ。
ただ、もうタイムリミットは30日しかないみたいだし、油断なんかしないで、万全を期して弱体化イベントに挑みたいんだ。
「でも、珍しいですね。何かあったんですか?」
「んー、まぁ、ちょっとな。お昼はいらないから」
ノノと一緒に食器を持って行った俺は、ノノにひとこと言って、家を出た。
一応、ルラにも一言声をかけようかとも思ったんだが、一日で距離を詰めすぎるのもどうかと思うし、やめておいた。
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