妹?
「……お兄様、おはようございます。随分遅かったですね」
朝食を食べるためにリビングに入るなり、俺はそんな声を掛けられた。
……誰だ? てっきり、一人で食べるものとばかり思ってたから、びっくりしたんだが。
そう思いながら、声をかけてきた主に視線を向けたんだけど、本当に誰か分からなかった。
……母親? いや、流石に違うか。こんなに若いはずがないし、そもそも、俺……と言うか、ノヴァの家族はノヴァの強さを恐れて、嫌ってる訳ではないけど、別のところに住んでるし、ここにいるはずがない。
じゃあ、この子は誰だ? ……お兄様、とか言ってたよな。……じゃあ、妹? それこそまさかだ。ノヴァに妹なんて……いた。よくよく思い出してみたら、いた。
そうだ。ノヴァの過去に一瞬だけしか出てこなかったから、忘れてただけで、ノヴァには妹がいる。
……ただ、まさか一緒の家に住んでるとは思わなかったな。
家族は全員、ノヴァが強すぎる故に怯えて、違うところに住んでるとばっかり思ってた。……そういえば、よく考えてみたら、家族全員とは書いてなかったな。
「……食べないんですか? お兄様」
俺がそんなことを思い出していると、名前も知らない妹がそう言ってきた。
……俺に怯えてる様子はない。……ただ、あんまり妹との仲はよろしくないみたいだな。
言葉は落ち着いてるけど、一切俺の方を見ようとしないで、朝食を食べ続けてるし。
「食べるよ」
仲が良くないのは残念だけど、自分の妹の名前すら分からない今の俺じゃ、何も出来ないだろうし、そう言って、朝食を食べるために妹の対面に座った。
すると、何故か妹は困惑したように、水色の綺麗な瞳を丸くしながら、俺の事を見つめてきた。
「今日は、自分の部屋で食べないんですね」
そしてそのまま、そう言ってきた。
え? もしかして今までのノヴァって、この子と一緒に朝食も食べてなかったのか? 一緒の家に住んでるのに? ……と言うか、今日は自分の部屋で食べないんですね、ってもしかして、遠回しに自分の部屋で食べろよって言ってる?
「自分の部屋で食べて欲しいのか?」
「ち、違うよ兄さん!」
どれだけ考えても分からなかったから、そう聞くと、妹は慌てたようにそう言ってきた。
……言葉遣いがさっきと違うんだけど、これが素かなのか?
「い、いつもは、返事すらしてくれないから、そう言っちゃっただけで、兄さーーお兄様と一緒に食べたくないわけではありません」
「そうか? じゃあ、一緒に食べるか」
「は、はい!」
そう言うと、妹は俺と同じ白い髪を嬉しそうにサラサラとなびかせながら、一緒に朝食を食べ始めた。
……俺がこの子……この妹のことを知らなかったってことは、多分、この妹も死ぬってことだよな。
そう思いながら、俺は改めて、目の前で嬉しそうに食べている、まだ名前も知らない妹の顔を見た。
……死んで欲しく無い、な。
「? お兄様、どうか致しましたか?」
そうやって朝食を食べている妹を眺めていると、恥ずかしげに顔を少し赤らめながら、そう聞いてきた。
「なんでもないよ。可愛い妹と一緒に食べる朝食は、美味しいと思っただけで」
「か、可愛い、ですか? に、兄さんも、お世辞とか、言うんだ。……で、でも、に、兄さんも、か、かっこいい、と思うよ」
「お世辞じゃないけど、かっこいいっていうのは、ありがとう」
「ッ」
元の俺だったら、絶対にかっこいいなんて言葉は妹同様、お世辞だと思っただろうけど、今はノヴァの体だから、純粋にその言葉を受け入れることが出来た。
「か、からかわないでよ、兄さん!」
妹は怒っているようにそう言ってきてるけど、そう見えるだけで、嬉しいっていう感情が透けて見えていた。
「からかってなんかないよ」
そう言って、そのまま、俺は朝食を食べるのを再開した。
守る人が一人増えたなと思いながら。
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