霊能力者への道 血の儀式を決意する武術家

第25話 一触即発

　徐盛星は、何か奇妙な感情にかられているようだった。私がクロエ（アダム）と警察の制服を持って、別々に着替える場所へ向かう時、彼はただ何も言わずに頷き、私たちが着替えるのを静かに待つという合図をしました。普通の彼なら、ここで私を嘲笑うだろうに、「女の子ならまだしも、お前も男でそんなに恥ずかしがる必要はないだろう？」と。

　しかし、彼はそうしなかった。かえって静かに立って、風に揺れる葉を見つめ、まるで葉の動きに自然の神秘の隠喩が宿っているかのように、彼は古代部族の巫師のように、そんな「火に投じられた亀甲の裂けた紋」のような無規則性から何か答えを求めようとしているかのようだった。

　彼がとても迷っているのが分かった。この二日間で、彼が見つけたのは井上仁太の居場所だけではなく、彼の期待に反する手がかりや証拠も見つけていたのだろう。

　私が着替えて戻ると、クロエはまだ戻っておらず、徐盛星は私を一瞥して、「なかなか似合っているな」と無愛想に頷いた。

「そうか、では、手投げグレネードでもくれるかい？」私は腰の外側に取り付けられた銃ホルスターを叩き、「君の記憶によるなら、警察が本格的に作戦に参加する時には、拳銃以外にもその品が持っているだろう」と言った。中に本当に銃は入っているが、弾丸は入っていない。

「霊能者やお前のような化け物に対してだけだ。」彼は订正して、とんでもない行動をした。まだ保険を外してない手投げグレネードを、まるでリンゴを投げるように投げてくれた。

　私はすぐに手を伸ばして受け止めた。簡単に爆発しないことはわかっていたが、その危険なアイテムが地面に落ちそうになると、心は緊張してしまった。

「本当にくれるのか？」と私は非常に驚いた。

　この手投げグレネードの爆発のシーンは、以前にも見たことがある。破壊力は非常に大きい。グレネードの表面には何千もの小さな鋼玉が埋め込まれており、グレネードが破裂するとともに放射状に飛び散って、一定範囲内の敵に巨大なダメージを与える。私の故郷の世界にも同じ武器があるが、ここでは霊能者との戦いをより効率的に対処するために、破壊力と破壊範囲を強化している。これは他人に与えられるものではない。

　とはいえ、実際に高ランクの霊能者と戦う際には、あまり役に立たない。せいぜい二、三ランクの霊能者には対処できる。一ランクの霊能者と戦う時には、手詰まりになり、決定打を与える力にはならない。

　徐盛星に使おうとしても、さらに無駄だ。徐盛星自身が、これ以上強力な破壊力を生成できる。彼が銃器や手投げグレネードを携帯する理由は、恐らくこれらの武器の威力が一般人にとって理解しやすく、威圧感があるからだろう。

「音痴な玉だ。修理もできない。玩具と変わらない。」彼は冷たい態度で私を一瞥して、「お前が要求すると思ったから、わざわざ持って来た。嘲笑うためだ。」

「それは本当に「ありがとう」を言うべきだ。」私はそれにかまわず、「この格好をさせてくれたのは、井上仁太を護送から奪う前に、まず「警察隊に混入した偽警察」として伪装しようとしているのか？」と言った。

　私が話している間に、クロエも着替えて合流してきた。

「そういうつもりだ。」と徐盛星は言った。「しかし、もし彼が私と対峙する時に真犯であることが露見しなければ、あなたたちが彼を奪う必要もなく、私は直接彼を局舎に連行できる。」

　クロエは私たちの会話を聞いて、横で一言、「そんな失敗を犯さないでしょうね。」と言った。

「それは彼の意志じゃなくて、」と言って、徐盛星は袖を捲り上げ、手首に古風な手串がかかえている。「これは昨日、局から借りてきた霊能アイテムで、『嘘を探知する』効果がある。周囲に嘘をつく人がいると、アイテム自体が自動的に45度以上熱くなるので、装着者には知らせてくれる。そして、従来のポリグラフとは異なり、この霊能アイテムは一般人に対しては100％の嘘探知効果を発揮する。『ほぼ』100％ではなく、100％だ。」と彼は言って、突然私を見て、視線だけを向けても、まるで野蛮人が槍を持ち、突然川の魚を突き刺すような『準備された突然性』のような印象を与えた。

「たとえば」と彼は私をじっと見据えて、「無名の人、あなたは今『18歳』ですよね？」

　私は心を痛めましたが、表面では崩れずに、冷静に答えた。「いいえ、合計で42歳ぐらいです。」

　彼は手串を覗き込み、また眉をひそめた。どうやら手串は反応していない。

「無名の人が18歳なんておかしいでしょう？」クロエが笑って言った。「もし本当なら、彼は15歳から一般人の体で霊能犯罪者を狩っていました。たとえ母胎から武術を始めても、そのレベルまでは絶対に達しないでしょう。」

　そう言って、彼女はまた私を見て、感心して、「しかし、42歳とは思いませんでした。この変装された顔を見ると、24歳だと思われます。」

　ただ「心理的な年齢が42歳」だ。私は心の中で言った。

「そうだね、さっきはただの冗談だった。無名の人ってそんなに若くないよね。」徐盛星はうなずいた。「とにかく、これからはこの霊能アイテムで井上仁太を試す。もし彼が真犯なら、彼を拘留しながら、局にもっと多くの捜査リソースを要求して、彼の罪証を集めることができる。」

「直接彼に罪を問うことはできないのか？」クロエが尋ねた。

「できない。」徐盛星は言った。「霊能アイテムの嘘探知結論は、法的証拠として認められない。」

「100％の嘘探知効果でも？」クロエが追及した。

「それは政治、社会、倫理、心理、歴史、霊能……など多くの学問の問題に関与しており、学問の世界でも「それが法律体系に取り入れられるべきかどうか」という議論が度々あります。非常に複雑です……」徐盛星は言った。「しかし、バカでも理解できるように要約すると……いくつかの『嘘をつきたことが呼吸と同じような人々』は、そのようなものが法的効力を持つとは望んでいない。」

「はい、わかりました。」クロエは納得してうなずいた。

　徐盛星は続けて言った。「しかし、これは参考として非常に価値があります。その時は私に少し私刑を働かせても、局内で誰も文句を言わないだろう。」

「警察が私刑を働かすのは違法です。」私は尋ねた。

　徐盛星は断言して、「暴露しなければ、違法とは言えない。」

「だから、あなたは本当に人民警察の仲間なのか？」クロエは徐盛星に対する認識がまた新鮮になったようだ、「あなたの息子はあなたが外でこんな仕事をしていることを知っていますか？」

「二度と繰り返さないでくれ。もちろん知らないだろう。」と彼は言った。

　私は彼を一瞥した。

　一時間後、私たちは車で郊外の製薬工場に到着しました。

　この製薬工場は外見から見ると、地面に置かれた巨大な白い箱のようなもので、建築として个性はなく、ただの大きさがあるだけです。もちろん、医薬品を量産する工場として、建築の芸術性を追求する必要もありません。この場所も少し年代があり、外壁は風雨に晒されてから、很多地方の漆が剥がれ、灰色の跡が目立つ。

　玄関に到着すると、社員のような人が出迎えにきました。

　名義上、徐盛星は公務を遂行し、ここにいる井上仁太に質問に来たのであり、私とクロエは従業員で、ヘルメットを着けて顔さえ現さない。とはいえ、私たちは突然の訪問者ではなく、予期された訪問者でした。

　徐盛星は丁寧に言った。「こちらへどうぞ。」と従業員が私たちを廊下に導いた。

　廊下の両側には床下窓があり、部屋の中を直接見ることができます。私たちが通過した場所は、生産ラインではなく、医薬品研究の場所のように見える。研究者は部屋で実験器具やコンピューターをいじり、何を研究しているのか分からない。従業員によると、この製薬工場は医薬品の研究も行っている、単に医薬品を量産するだけでなく。

　クロエは右も見;leftも見、そして私の耳元に近づいて、小声で言った。「『最終関門』に入ったような気がする。」と言った。

　もし井上仁太が神秘組織の「ボス」であり、私たちがここで彼を倒す必要があるなら、それは実際に最終関門になる。

　しかし、私は自分の目的を決して忘れていない。私はここに井上仁太を倒すために来たわけではない。もちろん、チャンスがあればそれは可能だ。しかし、根本的には、私の目的は神秘組織を徹底的に調査し、彼らの「霊能覚醒薬」の研究計画から、自分自身が霊能者になるために役立つ手がかりを見つけることである。

　もしクロエが神秘組織から追われる中で反抗を決意した「反撃者」であれば、私は秘密を探るために行動する「調査員」である。

「私たちに辺りを見学させてもらえますか？」徐盛星は従業員と話すときにとても丁寧でした。

「それは、ちょっと無理です。」と従業員は困って、「主に商業秘密的关系です。そして、ある場所は虹彩スキャンが必要で、私も入れません。」

「残念です。」と徐盛星は言った。

「あなたたちは盗賊を調査に来たのですか？」従業員が好奇心に満ちて尋ねた、「今朝盗賊が入ったようですが、警備員が捕まえられず、逃がれました。」

　盗賊？そのタイミング？私は注意を引き、しかし「設定」によると、私は徐盛星の従業員であり、勝手に質問をすることはできない。

「そうですか？」徐盛星は少し驚いて、「私たちは他の用事で来たのです。」

　従業員はああと言って、彼がどんな用事かを気にしていない。

　すぐに彼は私たちを客間に連れて行きました、ドアを開けてくれました。

　徐盛星はその中で入って、私もクロエはその後を追いかけて入りました。

　客間には様々な家具が備え付けられており、ソファや低いテーブル、本棚や植物などがあります。

　室内には二人の人物がおり、その中の一人は40代の男性で、外見は非常にハンサムで、中年の今でも美男子と呼べる；もう一人は無表情で、鋭い視線を送る、黒い制服を着た、ソファーの後ろに立っている、軍人出身のボディガードのようだ。

　前者は間違いなく井上仁太だろう。私は彼の真の姿をこんなに近くで見るのは初めてだ。

　しかし、その時、後者のボディガードの男の方が私に注目を集めていた。

　彼がなぜ注目に値するのかを具体的に言うことは難しいが、もし言わなければならないなら、「直感」だろう。

　このような言い方は霊能者においてよく見られるが、一般人にも直感は存在する。ただ、霊能者の直感は直感に基づくものであり、一般人の直感は無意識の思考に基づくものである。人の脳をコンピューターに例えるなら、その中の多くのプログラムはバックグラウンドで動作している。例えば、光の情報を画面に変換する、空気の振动を音に変換するなど、これらはすべてバックグラウンドで動作するプログラムである。そして、時々、人のバックグラウンドプログラムは、何らかの関連性がないように見える情報を組み合わせて、結論を導き出し、フロントに押し出す。

　フロント（表面的な思考）はバックグラウンドの作業プロセスを見ることができないため、それを何らかの理由のない直感とみなすことになる。

　そして、今私の直感は、井上仁太の後ろに立っているボディガードの男が、非常にrare「特级霊能者」である可能性が高いことを告げている。

　徐盛星もすぐにそのボディガードの男の目を向け、二秒後に井上仁太を見ると、「長い間会えなかったね。」と言った。

　井上仁太はすでに立ち上がり、今、徐盛星に向かって熱心に迎えに行きました。「そうですね、約半年間ぶりですね？私たちはそれぞれ自分の事業と家族があり、学生時代のように即座に集まることはできない。」と言って、彼は時間の無情さを叹き、感嘆の色を示した。

　徐盛星は黙認し、ソファに座り、私とクロエは黙然と彼の後ろに立ち、ボディガードのようだった。

　井上仁太は自分のためにと徐盛星のためにそれぞれ一杯の熱い茶を注ぎ、そして徐盛星の対面に座った。徐盛星がかつて言ったように、井上仁太は整頓に対する強迫的欲求があるようで、座った後、まず自分の衣服に余分な皺がないように気を配り、自らの衣裾やズボンを引き、姿勢を調整し、自分が挺直した印象を与えるようにした。

「では、何の用事でしょうか？」と彼は熱心に尋ねた。「公務ですか？」

「そうです。」と徐盛星は頷いた。

「それとも他のことを話しましょうか？」井上仁太は言った。「古い友達を久しぶりに会えたのに、公務だけを話すと少し退屈です。」

「いいえ。」と徐盛星は言った。「今日は公務だけだ。」

　井上仁太は意外な表情を見せ、「忙しいのですか？」

「挨拶はこれくらいで十分です。」と徐盛星は熱い茶を入れた磁器のカップを持ち上げ、見たが、再び置いて言った、「私にただ一つの質問がある。問い終わると去る。」

　そう言って、井上仁太は眉をひそめ、「何のこと？」

「最近河狸市の発生した人口失踪事件は、あなたが舞台裏で主導しているのか？」徐盛星は直接問いた。

「どうして？私はまだ初めて聞いたです。」井上仁太は驚いた表情を見せ、なぜそんな質問を受けるべきなのか理解できないようだった。

　徐盛星は手首を触った。

　井上仁太の後ろのボディガードが何かを感じたか、彼の瞳の虹彩が突然暗い黄色に変わり、徐盛星の行動を注意深く観察した後、元に戻り、冷笑を浮かべて言った、「井上、もう演じる必要はない。この警察には霊能アイテムがあり、あなたの嘘をすでに検出しました。」

　現場の雰囲気は一瞬にして緊張し、一触即発な状況になった。