曇の終わりと晴れの始まり (中)

 鳴り止まない着信音

 凛は少し俯き重い腰をあげたようにベットから離れ数歩先のスマホへ動き始めた。まるで機械的に動かされているような彼女の姿は着信音の相手が分かっている上での行動であると想像するのは容易いことだった。案の定、凛はスマホの画面を覗き込むとすぐにスマホを地面に伏せ着信など無かったかのように脱ぎっぱなしだった服を着だした。

 「誰からだったの?」

私の問いかけに数秒置いてから

 「知らない番号。出ないことに決めてるの」

「、、そうなの」

 嘘だ。私は直感でそう感じたが、根拠を言えるものは何も無かった。でも凛が私に嘘をついているとも思いたくなかった。それは親にすら相手にされないような私の唯一の味方のような想いで凛のことを見ているからかもしれない。

そう考えている内に全ての服を着た凛が私を見てきたので、私も脱ぎっぱなしにしてた服たちから下着を取り出した。

 

 凛とお別れして家に帰った私に待っていたのは拍子抜けするような現実だった。てっきり私は母親から今朝の件について責め立てられるのかと考えていたのだが、どうやら父親の帰宅が母親の想定より早かったらしく夕飯の支度や部屋の掃除に励んでいて私に構う暇など無さそうだ。その隙に部屋に逃げ込んだ私を母親は追ってこなかった。

 家ではしばしこういうことが起こる。父親は昭和の亭主関白で世間体を非常に気にする。自分の娘が同性愛者だと知ったら勿論私は責められるだろうがおそらく母親も責められるだろう。


お前の育て方が悪いんだろう


母親が娘が自分の思い通りにいかないとヒステリックを起こしたらするのももしかしたらこれが原因なのかもしれない。ただ、私には関係ない。あなたがこの人を結婚したのが悪いのだ。私は私の愛したい人を愛する。 私は凛の家で少し身体を動かし過ぎたので夕飯の支度が終わるまで眠りにつくことにした。


 「またなってるよ」

今日は日曜日ということで、私は凛と2人で行きたかったカフェに来ていた。カフェに来た当初はお互いくだらない話で盛り上がり、ケーキを美味しく頂いていたのだが、ある事で空気は一変してしまった。 また、凛のスマホから着信音が鳴り凛がそれを無視したのだ。

 「この前もだったよね?迷惑電話?」

「そうかもしれないね、、」

そう言う凛の表情はまさしくこれば苦笑いと言った顔をしている。口角が少し上がったようだが、目は一切笑っていない。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。

 「ほんと?」

私が続けると、凛は腕をテーブルの下にしまって目線を下に落としてしまった。

彼女は何かを隠している。

これは直感から確信に変わっていた。問題はなぜ私に隠しているのか、だ。私を思ってのことなのか私を裏切っているからなのか。後者にあることは考えたくない。そう願いながら私はそこに足を踏み入れる事にした。

 「私に言えないこと?」

「いや、そう言うわけじゃないんだ」

そう答える彼女にいつもの明るさはなかった。

 「正直、凛が隠し事をしているのは何となく分かるよ。それは私を裏切っているわけじゃないんだよね?」

「!それはもちろん。私が愛してるのは陽菜だけだよ!」

「じゃあ、教えて欲しいな。私に力になる事ができないかかもしれないけど、一緒に悩んだりとか、一緒に考えたりできるんじゃないかな」

 私の精一杯の答え。たかが高校生の私にできる事なんて小さいかとかもしれない。でも、私は凛にできる事は全てしてあげたい。

 「陽菜、、、」



凛は顔をあげるとテーブルの下にしまっていた腕をテーブルの上に置き、少し前のめりになった後大きく息を吸って続けた。

  「私に多分だけどストーカーがいる」

 


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