曇の終わりと晴れの始まり (中)

 「親にばれた、、めんどくさいことになるかも」

私は自分たちの学年とは関係ない校舎のトイレの手洗い場で今朝の出来事を凛に説明した。

トイレ入口の手前に位置している手洗い場は私と凛がいつも長い時間話す場所になっている。

 「まあ、いつかはばれちゃうものだからね」

私と凛は周囲には付き合っていることは隠している。理由は単純。私たちのような存在を受け入れない人間が確かに存在するからだ。現に母親がまさにそのタイプ。この手洗い場で話すのも私たちのことを知っている人間と遭遇する可能性が低いからである。

 「ばれちゃったものはしょうがないよ。私今度挨拶にいこうか?」

凛が続けた。凛は私が深刻に話しているときにこうやってふざける癖がある。今も女神のような微笑みを見せて私の前に立っている。

 「絶対にやめて」

対する私は目線をそらしいつもより低いトーンで答えた。少し怒っているように見えてしまったのだろうか。ごめんごめんと謝りながら彼女はその場を後にし教室へと戻った。


 私と凛は同じクラスだがここ以外で話すことはまずない。クラスでの立場はお互いに全く異なる。凛は誰に対しても笑顔。男子にもそれなりに友達がいるし、クラスの中心人物である。対する私は真逆。あまり作り笑顔もコミュニケーションも得意じゃない。スクールカーストは底辺に近い。友達がいない訳ではないし客観的に見ても嫌われているわけでもない。しかし、特に目立ったことはしていない。いてもいなくても特に影響はない。そんな生徒。

正確に言えば接点がない という表現が正しいのかもしれない。こうしてる間にも私は読みかけの本を手に取っているが、凛は男子含めて4人ほどで話している。

 「早く放課後にならないかな」

私の望みはこれだけだ。早く凛と話したい。人の目を気にせず、手をつなぎたいしはぐもしてみたい。学園ドラマでよく見る放課後屋上でのロマンス。憧れだが、私たちの関係がばれてしまうリスクを考えたら怖いという気持ちがどうしても勝ってしまう。私は最悪なんと思われてもいい。どうせ私は親にも愛されない女だ。だけど凛は?彼女には友達も多い。周りの評価がもし一変してしまったら?

それを考えて私は私たちの関係を秘密にしようといった。


 「私は別に周りにばれてもいいと思ってるんだよね」

放課後、私は凛の家に来ていた。ベットに横になりながら何を言い出すかと思えば、、

 「凛、私はどう思われてもいいよ。けどあなたが変な目で見られてしまうかもしれない。私はそれは耐えられないよ」

別に私もどう思われたっていいよ。と凛は返した。あなたとならば今自分が持っているものをすべて捨ててもいい。とまで言ってきた。

彼女にはこういうところがある。おそらく意識していないだろうが人たらしの言葉を私に流れるように投げかけてくる。私はずるいと思う反面、うらやましいと思う。


 凛はすぐ隣で横になっている私の頭をなでながら私にずっと言葉を投げてくる。

「きれいな黒髪」

「ウルフカットがよく似合っている」

「透き通るような肌」

「優しいひと」

コミュニケーションが得意ではない私には「お世辞でしょ、、」と返すのが精いっぱいでった。私は作り笑顔が得意ではないから今すごく変な顔になっていると思う。私はコミュニケーションが得意ではないから、こういう時上手い言葉が出てこない。

 「凛はすごいよ  私と違って作り笑顔も上手だし。こういう風に相手が喜ぶ言葉だってすらすら出てくる、、、」

 「ちょっと待って私が陽菜といるとき「作り笑顔」で「陽菜が喜ぶから」ほめてると思ってる??」

私としては本心で言ったつもりだったが、どうやら凛にとっては心外だったらしい。

 「私はね、陽菜と一緒にいて楽しいから笑ってるし本当に陽菜のことかわいいと思うってるから言ってるんだよ」

 「でも、、」

 「黙れ」

そういって凛は私の言葉を遮るように唇を重ねてきた。もうさっきまでのあんなにしていたというのに。今日はどうやら運がいい日みたいだ。

 

 この幸せがずっと続けばいいのに


 私がそんなことを考えていると突然、凛のスマホが鳴り出した。

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