第4話 調整
「よーし、じゃあまずはここの術式を変えてー……」
ヴェラは自分のデスクに移動中も、設計図と睨めっこをしながら考えていた。
「それでー……ここの素材を変えたほうが……うわぁ!?」
……しかし、夢中になりすぎたヴェラは、何かにぶつかり、転倒してしまった。
「いててー……」
「……もう! 何やってるんだい! いつも言ってるじゃないかい! 前を見て歩きなって!」
「あ、『ふくかいちょー』! おはよーございます!」
「はいはい、おはよう……全く、元気だけはいいねぇ」
ヴェラが副会長と呼んだ女……『メリク』は、会長であるアルタイルの妻で、主に機械製品の営業を担当している。
貴族は勿論、他の商会にも営業に向かうため、どんな場所でも適用できるように、「男性物の正装」を召していた。
ヴェラが設計し、ポラリスが現場を仕切り、メリクがそれを売りに行く……会長であるアルタイルは「ウチの女性陣には頭が上がらない」というのが口癖だった。
「機械の修正かい? またポラリスにダメだしされた感じだね」
「えへへ~でもまぁ、言われたことは事実ですから! それにポーちゃんも言いたくて言っているわけじゃないってわかってますから!」
「前向きだねぇ、アンタは」
「えへへ~照れますねぇ」
「いや、褒めたわけじゃないんだけどね……っと、仕事があるんだろ? アタシも外回り行ってくるから、アンタはやるべき事やりなさいな」
「はーい! 行ってきます!」
「行ってくるのはアタシなんだけどねぇ、まぁ頑張ってくれよ!」
2人はそれぞれの仕事を遂行するために、分かれた。
ヴェラは与えられていた自分の仕事部屋へと入り、席に座った。
その部屋は床から天井まで棚が聳え立っていて、部屋の中央には作業台があり、その上に模型のようなものが複数台並べられていた。
「よーし、解析を始めますか! 『汝たち、集結せよ』」
ヴェラが呪文を唱えると、棚から複数の設計図が飛び出し、浮いた状態でヴェラの前に広げられた。
作業台には、ポラリスたちが見ていた試作品の模型が中央に立ち、それ以外の模型は棚の中に入っていった……まるで自分の意思で行動したかのように。
「よーし、試作品『コボルトちゃん2号』! 完成させちゃうぞー! 頑張れ私! やってやるぞー!!」
ヴェラは模型に向かって術式を展開し、調整を始めた。
この模型で仕込んだ術式を、試作品にも適用させ、完成させていく……ヴェラの仕事は、機械を設計し、もしも欠陥が見つかったらそれを修正し、また欠陥が見つかったら修正し……これの繰り返しだった。
欠陥は修正をすればいい……口で言うのは簡単だったが、いざ行動に移すとそこには高い壁が複数あった。
「きゃあ!? また失敗……」
術式変更を行う最中、模型が挙動不審になり、仰向けに倒れ……そのまま動かなくなった。
このようなことは、作っていく上では起こるもの……ヴェラはそんな状況でも、嫌な顔一つしなかった。
「えへへ、今日も頑固だね~大丈夫! 私がちゃーんと動かしてあげるからね、コボルトちゃん! じゃ、この術式ならどうかな?」
ヴェラは模型を立ち上がらせ、修正作業を続けた。
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