第2話 Goodbye My Rival, Hello My Partner!
遠くなっていく意識の中で、魔王は百年前に自分が戦ったある勇者の夢を見ていた。
それは、光の
「……お前は魔法も剣も、どちらも他の勇者と変わらない実力だ。なのにどうして、他の勇者と比べ物にならないほど強い?」
魔王は疑問に思い、
一人でうずくまる勇者は、血が
「当たり前でしょ……だって、私にはパーティーの仲間たちがいる」
やっとのことで出した言葉も、今となっては説得力がない。
「なら、もうその力は出せないはずだ。
そう。魔王が全員殺してしまったからだ。
それこそが『魔』の王が最強である理由だった。
「……わからんな。
もう長くないであろう勇者に、魔王は
自分とはまるで正反対の相手にここまで追い詰められたその理由はなんなのか。
「見捨てる……なんてことはね、私は絶対にしないのよ。あなたのような心のない
「なにがおかしい。勇者よ」
魔王のことをどこか
「あなたにもあったのね。『感情』ってやつが。ほら、指先」
魔王は自分の手先を見つめて驚いた。わずかながら、震えている。
そこで初めて、自分は
「……なら、この勝負は私の勝ちね。あなたに『感情』というものを自覚させることができた。これから先、あなたが戦うときには恐怖に
「そうか。なら
魔王の
「……アセロラ・サンドラ」
「そうか。アセロラ・サンドラ。覚えておこう」
見ると、もう長くない。 勇者の
「私は……これから死ぬけど――」
次が最期の言葉になる。
自然と、魔王は
「あなたは……必ず負ける……私と同じ『心』を持った人間に、ね」
そう言って、アセロラは満足そうな顔をして死んでいった。
百年前、最も魔王を苦しめた勇者パーティーは、こうやって
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――
包帯が巻かれた右手を
「さて、ここは
ゆっくりと伸びをすると、その手に
ふと周りを見ると、岩をくり抜いて作った
「……?」
背中に
――ぎろり。
こちらを射殺すように見下ろす目が六個、頭が三個。
「――まさか、
急いで立ち上がり、包帯の巻かれた右手を上げ、魔力を
「
勢いそのまま、
「……」
どうやらこの包帯、力を封印する目的でつけたはいいものの、少々力が強すぎたようだ。
「――貴様らには余りある
話を聞くまでもなく、ケルベロスが三方向から体を引きちぎろうと食らいついてきた。
「ここまでか……じゃないよ!助けて誰かぁ!」
ケルベロスが俺を食いちぎるまでの数秒間で
「ちょっと!諦めてんじゃないわよ!」
ふと我に返り、前を見る。
魔王の目に、
巣を荒らされたケルベロスの怒気にも負けず堂々と立つ姿はまるで――
「――アセロラか?」
あの、魔王の最大の敵である勇者とそっくりだった。
「私が隙を作るから、その間に逃げて!」
しかし、すぐにそれは間違いだったと気付かされる。
あの勇者アセロラには
ケルベロス
「行くわよ!3・2・1!『閃光《《フラッシュ》』」
使う魔法はただの
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――わからない。
魔王は、自分の無力さを
それに対し、少女はあの勇者よりも少し
「あなたは知らない人だけど、知らないフリはできない。私は助けを求めている人を絶対に見捨てたりなんてしない」
「……そうか」
少女は、魔王がただ一人認めた勇者アセロラと同じ答えを持っていた。
魔王には、それが偶然のことだとは何故か思えなかった。
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