第2話 脳筋貴族、コメントにマジレスする
観音寺真琴は、ダンジョン配信者といった。
「配信? 観音寺、君はよくわからないことで私を煙に巻こうとしているのか」
「えぇ……なんかこの人、全然話が通じない」
いよいよ俺もおかしいと思い始めていた。
それは、観音寺も同じようで。
「……もしかしてあなた、異世界の人?」
「なぜそう思う」
「常識がまるで違うので。あなた、日本をご存じですか」
「知らない。そして、君の発言はいまのところ、ほとんどが意味不明だ」
ヴァイスベルクの家名が通じず、謎の魔道具、虚空に話しかける姿。
いまの意味不明な状況を鑑みると、、極魔窟のトンデモ技術により、異世界に飛ばされたと考えるが賢明かもしれない。
そうなると、もう二度と元の世界には戻れないかもしれん。まぁ、別にかまわない。
厄介払いされ、死ぬはずだった身だ。別世界で、こうして言語が通じ、観音寺のようにモンスターを討伐できるならオールオッケーだ。
「……だが、俺にとって観音寺が異世界人だというのは認めざるを得ない」
「いったん私も腑に落ちました。明らかにおかしかったですから」
「で、いまはどういう状況なのか、説明してくれないか」
「はい! できるだけわかりやすく、頑張ります」
ここは、地球という惑星の日本という国だという。
最近になって、突如として迷宮が世界各地に出没。同時に一部の人間には能力が与えられたとのこと。能力はダンジョン内でしか使えないという縛り付き。
いまいる場所は新宿
強力な魔物が潜んでいるため、中級から上級の探索者が潜るそうだ。
能力があり、なおかつ死の危険をいとわない輩がここには集まる。その点、俺の世界の迷宮と同じかな。
で、特徴的なのが。
「ダンジョン配信なんです!」
「ほぅ」
地球には、見えるものを映し記録する、ビデオカメラという魔道具があるらしい。
探索者や魔物の動きを探知し動く、自律型ドローンなる特殊なビデオカメラで、探索の様子を録画。
その映像を、世界で同時に見れるような仕組みがあるようで。
応援の文章を打ち込んだり、気になる相手にはお金(俗にいう投げ銭)を送ったりできるそうだ。
「ダンジョン内での戦闘風景を配信して、視聴者を獲得し、お金を稼ぐ――ダンジョン配信者っていうのは、そういう仕事なんです!」
なるほど、と俺は頷いた。
「で、コメントというのは?」
「いまも流れています」
腕についてある時計型端末を立ち上げると。
:ガチの異世界転生者で草www
:おいおいただの厨二病じゃないのかよ
:どういう状況だってばよ……
画面には、コメントというものが並び、次々と流れている。
「リスナー? の皆。改めて紹介する。俺は、貴族家出身、ルイス=ヴァイスベルクだ。訳あってダンジョン経由で別世界に飛んだみたいだ。どうぞお手柔らかに頼む」
ドローン? とやらに目線を合わせ、俺は語りかけた。
:き、貴族……?
:キャラ設定乙
:なんだこいつ
いまのところ、まだコメントは半信半疑というところだった。
「なんだか失礼なコメントもあるようだ。あまり俺も強い方ではないが、決して素人ではないぞ」
:いうだけならタダやしなぁ
:【悲報】コスプレおじさん、強いと騙る
:ほんとかよぉ
「お前たち、俺を侮辱する気か? 下手にしていると、俺の国なら首が飛ぶんだがな」
:貴族ジョークwww
:本物の貴族がいうと違うなぁ
:物騒すぎなんだが
「ルイスさん! コメントにやけになりすぎです。みなさん半分冗談でつぶやいてるんですから」
「そんな暗黙の掟など知らない。俺はいわれたとおり受け取ってしまうからな」
:煽り耐性ゼロで笑う
:この世で最もネットに向かない男
:まぁネットどころか地球初心者だもんな……
気になるコメントはオールスルー。
いろいろ抜かしている人たちも、ある程度戦いぶりを見れば納得してくれるだろう。
「ルイスさん、あなたって強いんですか」
「冒険者としては十数年やっているとだけ」
「意外とベテランなんですね」
「だな。とはいっても、上には上がいるし、地球で通用するかは不明だがな」
などと語っていると。
轟、と地面が響いた。風で塵が舞い、視界が歪む。
風がやむと、目の前には新たなモンスターがいた。
赤い目をギラリと光らせる、顔が牛である人型の魔物がいた。
大きさは俺の身長の三倍はある。
手には、先端に大きな鉄球をくくりつけた鎖。
「あれは、まさか」
観音寺は、震えた声で続けた。
「なんだ、あのモンスターは」
「鉄球ケンタウロス。本来なら、もっと深い階層でしか現れないはずなのに」
:鉄球持ち!?
;おいおいおいおいおいおい
:トップランカーでも死人が出てるやつじゃん
「どのくらい強い」
「いまの私じゃ絶対に勝てません。複数人じゃないと無理。重さを無視したスピードで鉄球が迫って、一度ぶつかれば内蔵がお釈迦です」
恐怖ゆえか、観音寺は早口だった。
「逃げるなら早くがいいです。だから――」
観音寺は続きを紡げなかった。
俺たちを気取った鉄球ケンタウロスが、鎖を飛ばした。
そして、一瞬で観音寺を絡め取っていった。
「観音寺!」
すっとケンタウロスの方へと引き寄せられる。
「グケケケケ……!」
観音寺は、歌で対抗しようとするも、聞いている素振りはない。それに、なにより武器で叩かなければ、あの音魔法は厳しそうだ。
あのままでは、観音寺はおしまいだ。
せっかくこの世界について教えてくれた相手。
みすみす見逃すわけにもいくまい。
やることはひとつだ。
「おい、そこの魔物」
「……ク?」
「観音寺を放せ。短い付き合いだが、大事な相手だ」
「グゥ……」
ダメだ、ということらしい。
「そうか。お前がその気なら、俺は動く」
剣を鞘から引き抜く。
魔力を注ぎ込む。このダンジョンの魔力も、俺のいた世界のそれと大差はない。
一気に、一カ所に、濃密度に。
構え、タメをつくる。
「知っているか。強い奴ってのはな」
踏み込んで、動き出す。
「クソ強えぇ魔力と、バカ強い筋力を持ってる奴なんだよ、くそったれが!」
一瞬で間合いを詰め、胴体を袈裟切り。
――ドン。
俺の動きに遅れて、音。衝撃。
崩れ去る、鉄球ケンタウロスの身体。
鎖に魔力をぶつけて断ち切り、落ちてくる観音寺を、魔力の防壁でキャッチした。
「助けに来たぞ、観音寺」
脳筋貴族、ダンジョン配信時代に君臨す〜規格外の魔力で無自覚無双していたらバズりが止まりません〜 まちかぜ レオン @machireo26
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