脳筋貴族、ダンジョン配信時代に君臨す〜規格外の魔力で無自覚無双していたらバズりが止まりません〜

まちかぜ レオン

第1話 脳筋貴族、見知らぬ地に転移する

 最難関といわれる迷宮の攻略。


 それが俺ことルイス=ヴァイスベルクに課された最後の命令であった。


 最後の命令っていうのは、これが実質俺を死なせるための罠だからだ。


 とりあえず、俺の半生でも振り返っておこう。


 二十数年前、帝国貴族の家に生まれた。


 貴族の慣習に馴染めず、立場にウンザリした俺は、すぐに冒険者に憧れた。


 腕っぷしひとつで成り上がれる実力主義が輝かしく見えた。貴族社会における権謀術数など、馬鹿な俺には向いていないと悟っていたからな。


 力こそ正義、筋力と魔力の強さですべてが決まる。最高だ。


 地位の高いヴァイスベルク家ではあったが、上の兄弟がたくさんいた関係で、どうにか自由にできた。帝王学も最低限という特別待遇。


 冒険者になると誓ってからは、筋肉と魔力のトレーニング、そして実践の日々。


 依頼を受けては村に出てきた魔物を討ち、迷宮に潜っては討伐と鉱物の獲得に励んだ。


 そんな自由奔放、魔物に費やす時間ばかりの日々が、つい数日前まで続いていたのだが。



 俺の特別待遇のために尽力してくれていた親父が、戦に出向いて行方不明になった。



 そうなると、俺の後ろ盾はない。好き勝手やっている俺はどうなるか。


 モンスターとの戦いである程度力をつけ、好き勝手やるような面倒な存在とみなされる。


 多くの意見として「貴族のくせに平民の冒険者ぶるなど、恥知らずも極まれり」というのが優勢であり、俺は疎まれる存在だった。そもそも、上の兄弟からも、白い目で見られていたものだ。


 実力もそれなりについてきたようで、貴族の中では脅威となっていたらしい。正直、他の冒険者に比べれば大したことはないと思うんだがな。


 で、体のよい処刑とでもしておくか、と上の連中は考えたのだろう。


 最難関迷宮、極魔窟。


 ここの階層ボスを倒せとのお達し。


 生存率は一割未満、実質俺の処刑と変わりない命令。


 それでも、俺は行きたかった。


 なにせ、俺の魔力と筋肉がどこまで通用するか、試せるいいチャンスだからな!!


 で、俺は潜って数分経ち。


 ぐいんと頭が揺れる感覚。


 おそらく、転移魔法。経験則でわかる。


 ……飛ばされた。


 モンスターと一戦交えるまでもなく、飛ばされた。


 * * *


 気がつくと、俺はまだ迷宮にいた。


 最初の階層と光景が違う。だいぶ飛ばされたらしい。


 魔力探知をしてみたところ、かなり地下深くの階層だとわかった。


「困ったな……」


 いきなり強敵と当たってしまうかもしれないんだ。


 ……最高じゃねえか!


 さてさて、お手並み拝見といけるんだ。ここまで奥深くに潜った冒険者など、歴史上ほとんどいないだろう。


 俺は最前線に来たのだ! 未知の領域といってもいいのだ。どんな異常事態も受け入れられる。


「さてさて……ん?」


 すこし歩いていると、近くで戦闘をやっている気配を察知した。


「なんだよ、先客がいるのか」


 そう思い、その場に出向く。


 モンスターも人もいないところを突っ切ると、目的の相手が見つかった。


「ソング・ブレス!」


 いたのは、若い女だった。見慣れぬカジュアルな服装に身を纏い、モンスターと戦っている。


 禍々しい見た目をした翼竜。


 どうも、彼女の魔法は、歌らしい。声を発するたびに空気が揺れて、モンスターにダメージが入る。


 一個不思議なのが、上空に浮かんだ謎の物体。


 戦闘の動きに合わせて、複数個のそいつが動く。不思議な魔道具だな。


「みなさん、とりあえずあいつを殺します!」


 おかしなことに、女は虚空に向かって独り言を呟いている。


 まぁ、泣く子も黙る極魔窟だ。独り言でもいわないとやってられないのだろう。


「音魔法一式」


 勢いよく飛び上がると、翼竜の聴覚器官へと急接近する。


 女は、腰元の道具箱から二本の棒を取り出す。


 そして、強くぶつける。


 コン、と甲高い音が響く。


 棒がぶつかるタイミングで魔力を込めていた。音に魔力を乗せ、翼竜の内部に直接ぶつける。


 ……とんでもない魔法だ。


 翼竜は身体の中から派手に破裂し、消滅した。


「はいっ! ということで、翼竜を討伐しました! 私、すごくないですか〜」


 またしても独り言。


「コメントは……って、そんなすごくない? 余裕じゃん? あれ、私の自己肯定感高いだけ?」


 コメント、とはなんだろうか。


 自分の脳内で架空の人間を作り出し、ソイツと話しでもしているのだろうか。


 これらから下される答え。


 彼女が、ぶっ飛んだヤバい人間だということ。


 ……とても面白い。興味がある。


 強い冒険者は、だいたい癖が強い。


 単に極魔窟のなかで頭がどうかしてしまっただけかもしれないが。


 今後の攻略のためにも、話しかけるとしよう。


 物陰から身を乗り出し、彼女の前に姿を現す。


「そこの君」

「……ひゃ!?」


 俺が話しかけるのを見て、だいぶ驚かれてしまった。


「私は別に怪しい者ではない。君と同じくこの迷宮を探索している者だ」

「いきなりナンパですか?」

「そんなつもりはない。君の戦いを見て、興味を持ったまでだ」

「やっぱりナンパじゃないですか! 私を誰だと思ってるんです?」


 完全に警戒されている。


「いろいろと誤解があるようだ、まずは名乗ろう。私はルイス=ヴァイスベルクだ。見ての通りの帝国貴族で、命令を受けてこの極魔窟を探索している」


 真面目に説明したつもりだが、やはり反応は芳しくない。


「そのよくわからない設定? よくわかりません。よく見たらあなた、探索者証を持ってなさそうじゃないですか。いろいろおかしいですよ!」


 どうも話が噛み合わない。ヴァイスベルク家の名前を知らぬ者はほぼいないはずなのに。


「変なことばかりいわれても困ります。わかってるんですか、!」


 カメラ?


 リスナー?


 知らない言葉が、彼女の口から出る。


「そこのあなた! 登録者二十万人越えのダンジョン配信者、観音寺かんのんじ舞琴まことを前にしてる自覚はあるんですか?」

「…‥すまない、よくわからん。君は誰だ」

「やっぱりふざけてますよね、ルイスさん」


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