第55話 閑話休題 クリスティアーネの誓い 4


「これでは、馬にも乗れない。剣も握れない……」

 そして、モッテ家の騎士や使用人は、養生すればと言ってくれるが、養生では治らないと思う。

 いや、もう、動かないとわかっているが、私を気づかい、そう言っているだけかもしれない。


 そして、このスイスラントは、寒いので、それがまた痛む。


 しかし、暖かいところへ行きたいなど言えるはずもなく、また、実家に戻る、はたまた、ロッテルダムの仕事もあるし、どうすればと悩んでいたところ、ロッテルダムのクリスティアーネから手紙が届いた。


 クリスティアーネによると、イリーゼさんと、話し合ったようで、医学の発達したオスマン帝国に行くことを勧められた。

 まったく驚いた。


 確かに、オスマン帝国の医学、自然科学は発達しているが、イスラム圏で治療なんて……


 そう、キリスト教では、キリスト教以外の宗教は排除すべきで、イスラム教は倒すべき敵と教えられて育つ。


 もし、若き日に、ジパングで仏道修行をしていなかったら、断っていたと思う。

「これも、何かのご縁。円相マルということか」


 そして、私は、アルプスを西に迂回し、イタリア経由でオスマン帝国へ向かうことにした。


 そこで、まさか……



***



 モッテ家にいつまでも世話になる訳にも行かないので、実家から使用人が来てくれた。

 一人は、あのアガーテだ。


 アガーテの話では、ライン王国の敗退のため、ライン王は帝国の選帝侯から降ろされたこと。

 そして、我が領地は没収され解体とのこと。


 なので、もう、私は伯爵嬢でなくなったわけだ……

 弟や甥と姪は、どうなるのだろうか?


 そんな不安な中、私はイタリアから、アレクサンドリアへ行き、ナイル川を遡りカイロへ着いた。

 ここカイロには、病院も多い。

 あのイリーゼが、まずカイロを勧めたのはわかる。


 そして、私が、紹介された病院は、港湾関係者御用達の病院だった。

 各港には、今も必ず専用病院があるものだ。

 そこで治療できなければ、大病院へ紹介を依頼するというわけだ。


 それと、何といっても、気温が高いので肩の痛みも穏やかだ。

 有り難いわ。ドイツやスイスは寒いのがいけない。

 そう、ぶつくさ独り言を言いながら、港湾関係者御用達の病院に着いた。


 院内にはいると、

「な、な、こんなことが……」

「ミーナ、イリーゼさんから聞いだぞ。腕は大丈夫なのか」

 と、私の元に駆けてきた大柄の男は、なんと!


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