第54話 閑話休題 クリスティアーネの誓い 3


「お嬢様、敵です」

「……あぁ、そうだな」

 私は、覇気のない返事をしてしまい、しまったと思った。


 それを、見透かしたわけではないだろうが、敵はすかさず、攻め込んできた。

 指揮の遅れは、すぐに対応の悪さに繋がった。


 押し込まれている!


 そして、敵の指揮を取っている男性騎士は、クリスティアーネの兄なのだろう。


 ダメだ!


 これでは、助けに行くどころか……

 弟のところに行くまでに、兵を失ってしまう。


 すると、気の緩みか、敵の矢が左肩に刺さってしまった。

「うわぁ」

 まあ、迂闊なことに、声を出すという失態を犯してしまった。

 これでは、我が部隊の覇気は急低下したのは、間違いない。

 負傷しても、平然としていないと指揮官失格なのだ。


「情けない。まったく、口程にもなかったわ」

 そして、私の意識は遠退いて行った。


***



 私が、目を覚ましたのが、これまた見知らぬ山小屋であった。


「お嬢様、気が付かれましたか」と、言ったのは、これまた見知らぬ男であった。

「一体ここは?」

「失礼いたしました。ヴィルヘルミーナ様、私は、モッテ家に仕えております騎士のアーベルと申します。ここは、スイスラント。しばらく養生なさいませ」


 そして、アーベルは説明してくれた。

 クリスティアーネの兄が、私を匿ってくれたようだ。

 そして、見つからぬように山小屋へと。


「ハイデルベルクは、どうなりましたか」

「申し上げにくいのですが、ライン王は敗北に近い形となっております。無論、負けを認めてはおりません」

 それ以上は聞く必要もなく、これまでの戦争史を知っていれば、理解できた。


 それもショックなのだが、私には、もう一つショックがあった。

 肩に受けた矢の後遺症なのだ。

「左腕が動かないわ……」

「今は、養生なさいませ」

 そう、これは、養生すればという問題ではなさそうだ。

 なぜなら、感覚が無いのだから。


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