第52話 ダブリン市民の憂鬱 7


「女か?」と、取調べのリーダーが尋ねた。

「はい、警部」


「あ、あの実は」と、ヴィレムが言うと、警官もファースもヴィレムに注目した。

「実は、私を男装させて、名前も男みたいに『ヴィレム』と名乗らせて……ナニをしようと、ファースさんが……」

「ほう、お嬢さんは、彼とどの様な関係かな」

「単なる同僚です」

「では、お名前は?」と、女警官が尋ねた。


「ヴィレミーナ・シュバルツです」


 警部は、しばし考えて話すことにした。

「では、お嬢さんは帰っても結構です。ファースさんは、二、三、お聞きしたいことがありますので、釈放はその後に」


***


 娼館でファースを待つことにしたヴィレムのところにファースが帰ってきた。


「いや、すまない。すまない」

「困った、兄さんだね。お代はしっかり、支払ってもらうからね」

「ところで、ファースさんは男色だったんだ。ボクをそんな目で見ていたなんて」

「まあ、嫌らしい」と、サーシャが戯けてみせた。


 ヴィレムは、冗談のつもりだったのだが、

「いやぁ、実は、男も女もイケるクチで、その……」

「!?」


 しばし、三人には、沈黙が流れた。


「で、どうやって、誤魔化したんだ。女警官は、ヴィレムを『女だ』と言っていたぞ」

「そこは、ふたりの秘密なんだよ」



 さて、ヴィレムとサーシャは、どうやって女警官に、「女だ」と言わせたのだろうか。



 その後、ファースは、「しっかり、支払ってもらうよ」と、サーシャに脅されていたので、朝まで頑張ることにした。



 そして、ヴィレムの“はじめて”が、サーシャとどうなったかは、皆さんのご想像に委ねることにいたしますわ。

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