第50話 ダブリン市民の憂鬱  5

 ヴィレムは、連れさられたファースが気になった。

 ヘニーもどこへ行ったのか、今となってはよくわからない。


「サーシャさん、ファースさんが気になりますので、警察署へ行ってきます」

「放置しておきなよ」

「そういう訳にも……で、ファースさんは、何故、連れて行かれたのでしょう」

「男同志で寝ようとしたからだよ。アイルランドはカトリックだからね」

「そういうことでしたら、お願いがあります……」

「???」

「実は……」

「ちょっと、本当なのかい」

「ということで、服を貸してください」

「まあ、あんたがそれで良いならね」


***


 ダブリン警察署では、取り調べが始まろうとしていた。

「オランダ人か。新教徒が風紀を乱そうとしているということか」

「いや、その、待ってくれ。あいつはうちの船員で……」

「仲間であっても、ここダブリンでは違法行為だ」

「あぁ、そうだ。それなりのナニが用意出来ないのなら、しばらく、ここにいてもらうことになるがね」


 そこに一人の警官がは取り調べ室に入って来た。

「迎えが来ました」

 ファースは、おかしいと思った。

 なぜなら、迎えに来れるだろう人物のヘニーは、どの店に行ったかわからないのだから。


 さて、やって来たのはサーシャとお連れの女性だった。

「誰だ?」と、ファースは言いそうになったが、ここは様子を見守ることにした。


 なので、取り調べていた警官が尋ねた。

「お二人は? いや、一人は先の娼館のご婦人かな」

「そう、サーシャと言うわ」

「では、お連れさんは?」

「この男の連れですよ」

「いや、この男と一緒にいたのは若い男だった。別人だ」

「いいえ、先ほど、ファースさんと一緒にいたのは、ボク、いえ、私です」


 その声を聞いたファースは、なんだか、おかしいとは思ったが、「ヴィ、ヴィレム。来てくれたのか」と叫んでしまった。

「はい、ボ、私が助けに来ました」


 警官たちは、男だったヴィレムが女になっていることに、疑問を持ったので、

「ご婦人、説明をお願いしてもよろしいでしょうかな」と、リーダーらしき警官が、サーシャに説明を求めた。

 なので、サーシャは……



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