第46話 ダブリン市民の憂鬱 1


「済まない、大西洋への航路は転覆寸前の船で混雑している。ベルファストからダブリンへ回ってくれないか」とベルファストに入港することは叶わず、ダブリンへと回されることになった。


 クリッパー船の誰もが「マズイな」と思っただろう。

 ダブリンは、アイルランド島の西側、つまりブリテン島側になる。


 これでは、大西洋にいち早く出て、季節風に乗り、喜望峰まで疾風のように駆けたかったのだが、また、遠回りだ。

 船内からは、落胆の声が聞こえそうだ。


 そんな暗い空気を打ち破ったのは、他でもない、女コックのドロアテがやって来たからだ。

「まあ、飯でも腹一杯食いなよ。腹が膨れれば気持ちも変わるってもんだよ」と。


 だが、船内は、一瞬、間が空いた……


 そこに、

「ドロアテさん、何が食べれるの? 楽しみだな」と言ったのはヴィレムだ。

「それは、食堂に来ての楽しみだよ」と、ドロアテとヴィレムは笑い合った。


「そうだな。飯でも食おう」

「あぁ、そうしよう」と、船員たちは食堂に行くことにした。


 数時間後、クリッパー船はダブリン港に着いた。


 ダブリンはアイルランドの首都であり、古アイルランド語で「黒い水溜まり」と言う意味だ。

 それは、多くの河川が流れており、そのことが由来だろう。


 船長は、ダブリンに長居をするつもりはなく、早く大西洋に出て、インドに向かわなくてはいけない。


 単なる順番待ちのつもりであったが、一向に手続きが進まないので、船員たちに上陸許可を出した。

 そのことが、新たな火種になろうとは、誰も予測していなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る