第五章 アイルランド島

第45話 移民船団



 19世紀のアイルランドは混沌を極めていた。


 1940年代後半のジャガイモの疫病の広がりは、ジャガイモに食料を委ねてきたアイルランドでは、大飢饉を引き起こした。

 餓死者が100万人、そして、移民としてアイルランドを去った者100万人。


 そして、16世紀からのイングランドによる支配。


 アイルランドに生気などなく、全て淀んでいた。

 食糧難、乱れた風俗、独立を求める反イングランド活動者……


 ヴィクトリア朝といわれるぐらい栄えていたブリテン島をよそに、隣のアイルランド島は危機的状況であった。


***


 エディンバラを出港したヴィレム達を乗せたクリッパー船は、ブリテン島の最北端を周り、アイルランド島に近づいていた。


「なんだ、あれは?」と、船長が呟いた。

 甲板にいたヴィレム達も「なんだ?」と口々に呟いている。


「ファースさん、あの船、明らかに乗員オーバーしてますよ」

「あぁ、異様だ。まるで転覆しちまうのを覚悟しているみたいだ」


 その異様な船は、アイルランドから大西洋へ向かっている。


 これが、ジャガイモ飢饉によって起こっているアメリカへの移民船団だ。


「また、今年もジャガイモは不作だったらしい」とは、ヘニーだ。

 農業の三分の一をジャガイモに頼っているアイルランドでは、ジャガイモの不作は死活問題だ。


 なんと言っても、ジャガイモは年に二から三回収穫できる優れた作物だが、疫病により、不作が続いていた。それは、アイルランドに限ったことではないが、先も申した通り、アイルランドの農業の三分の一はジャガイモ産業なのだ。


 あの船に乗っているのは、ジャガイモ農家なのだろうか?

 新天地を求めて故郷を去ろうとしている。

 その新天地では、新たな差別が待っているとも知らずに……


「転覆せずに新天地に行けると良いですね」

「そうだな、ヴィレム」と、ヘニーは答えた。


 しかし、移民船団でごった返していたアイルランドでは、海の交通整理が行われていた。


「済まない、大西洋への航路は転覆寸前の船で混雑している。ベルファストからダブリンへ回ってくれないか」と。

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