第44話 閑話休題 エマリーの失態2 私だけ結婚できないなんて……


 エマリー・アインホルンは従姉妹のイリーゼとにらめっこをしていた。


 いや、大の大人がにらめっこの勝負をしていた訳ではない。


 エマリーが何か言いたそうである。

 だが、わざとイリーゼは黙っているようだ。


「い、従姉妹のイリーゼ・アインホルン。貴女は良かったですわね」

「お姉さま、随分な言いようですね。ここは『おめでとう』ではないでしょうか」


「おおおおお、おめ、おめでとう……」

「そう、お姉さま。私は、イリーゼ・アインホルンでなく、今日から"イリーゼ・ヤンセン”ですので、よろしくお願いいたしますね」と、イリーゼは胸を張った。

「うっ、うううう……」

「それに、弟のアッ君が結婚するときは、こんなひどい言いようはしなかったのに、なんですの」

「だって、私だけ、結婚出来ないなんて……」


 そう、エマリーは、嘗て領主のヴィルヘルミーナと共に旅をした旅仲間で、唯一、未婚となってしまったのである。

 男装の麗人のヤスミンが結婚した時は、さすがに衝撃だったらしい。いつも、近づいてくるのはご婦人だったからだ。


 花屋をしていたローズマリーが結婚した時も驚いた。何故なら、彼女は花の栽培に“人骨”を墓から盗んできていたからだ。墓暴きは、今なら重罪だが、この時代は、大きな問題にはならなかった。

 そんな女と結婚しようという男がいたとは……


 そして、最後の一人である従姉妹のイリーゼが、ヤンセンという商人と結婚した。


「私も、かなりの晩婚なんですから……」

 そう、16世紀と言えば、20歳で子供が二人ぐらいいても、別段、おかしなことではない。25歳になれば、子供が学園に通ったりと、子供の友達からは「おばちゃん」と呼ばれるのである。


「おぉ、昔は、周りから『美人だ』と呼ばれて粋がっていたのに」

「粋がってなんていませんッ」

 イリーゼは咳ばらいをして、改めてエマリーに問うた。


「で、お姉さまは、どうするの。アインス商会の今後のことも」

「う~ん。カール商会に出した弟の息子を呼べんかな」

「えっ、追い出しておいて息子をくれと……」


 そう、かつてエマリーは弟が後を継がれてはいけないと、あらゆる手を尽くして他の商会に追い出してしまったのだ。

 そして、その商会の店主が若くして亡くなったので、今や、その商会は彼のものであった。

 

「そんなこと、奥さんのマリーネさんが許すとも思えないわ」

「それは、正面切っての話し。色々と策をですね……何といっても彼女は孝行娘。親孝行や村のためなら何でもしてくださいますわよ。オホホ」

「ちょっと、お姉さま……家名を汚すようなことは、くれぐれもお控えください」


 さて、エマリーはマリーネの実家から攻めることにした。

 宗教戦争でさびれてしまったマリーネの故郷の復興と発展に協力させて頂くのは、やぶさかではないが、私一代では無理というもの。

 次代の店主に……孫(マリーネの息子)を養子にくれと。


「村長(マリーネの父)にマリーネさん、それでこの村は発展しますわ。エエ話ではないですか」

「ぐぬぬぬ……お義姉さま」


第四章 完

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