第43話 ハンドベル



 ヴィレム達は、海軍艦が邪魔でタグボートを回収できない。

 そして、遥か南方からは、テムズ川から追ってきた海軍艦が、微かに見えてきた。


 ダメだ!

 タグボートに牽かせたまま外海へ出てしまう。

 タグボートには大波を走破することは出来ない。のみ込まれてしまう。

 それは、隣の海軍艦も同じだ。

 これ以上、タグボートに牽かせるわけにはいかない。


 どうする?


 すると、海軍艦は強引にタグボートとのロープを切り離してしまった。


「もう、海軍艦は、自力航行出来るのか」と、操舵手のカスペルがボヤいた。


 そう、海軍艦のタグボートはこの港湾のものだから、切り離しさえすれば、後は、自力で港まで帰ってもらえば良い。

 だが、ヴィレム達のタグボートは、船に艦載しないといけない。

 もう、外海まであとわずかだ。


 カラン、カランカラン!


 と、ハンドベルの音がした。

「なんだ?」


 無数のセーリングヨットが我ら周りを航行している。


「これは、ブルームエレガンス商会のヨットでは……」

 そう、ブルームエレガンス商会が、この辺りの港や島、船に訪問販売を行っているのだ。


 すると、一隻のヨットからは「船長、今のうちにタグボートを」と、声が聞こえた。


 そう、彼らは、海軍艦とクリッパー船の間をすり抜けている。

 海軍艦も自由に動けない。


「今だ、回収しろ」

 タグボートを回収したクリッパー船は、エディンバラからさらに北上し、アイルランドへと航行して行った。


「ローズマリーのヤツめ!」と、叫んだのはジョルジュエットだ。

「これでは、クレマンティーヌ様に……なんと報告すれば……」



 クリッパー船は、29枚の帆を全て掲げ、全速力で走り出した。


 海軍艦はもちろんのこと。

 それは、もう、誰も追いつくことのできない速さであった。


 海軍艦は振り切ったが、船長は気が気ではなかった。

 既に、ロンドンを出て、一日を浪費してしまったからだ。

 そして、まだ、大西洋に出るには、さらに一日は必要であった。


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