第42話 訪問販売開始


  あと、もう少しで外海に出られる。

 迫りくる軍艦を睨みながら、船長たちが祈った。


 タグボートでは。

「ヘニー副船長。もっとスピードは出ないのですか」

「急に火を入れたんだ。火力が足らない、火力が……」


 遂に軍艦が|"Sleutels tot de toekomst《スレイトゥルス トット ドゥ トゥークンスト》"号と並んだ。

 誰もが、息をのんだ。


「どうするつもりだ」

 すると、軍艦は何事もなかったように追い越して行った。

 船員たちは安堵したが、船長が叫んだ。

「イカン、先に行かせてはダメだ。テムズ川と同じことになる」

「どうしたのですか、船長」

「あれを見ろ」と船長が指さした方向には、なんとテムズ川にいた軍艦が追い付いてきたのだ。


「どう見ても、これはヤバいですね」

「あぁ、ファース。ヘニー達に伝えろ、急反転で北上すると」


 しかし、追い越して行った軍艦が邪魔になる。


「通せ、このブリキの軍艦め」

「副船長、この軍艦はブリキでは出来てないです」

「ヴィレム、アホか! ブリテンだからブリキだ」

「ほっ……」


 テムズ川から追ってきた三隻の軍艦に、このままでは追いつかれてしまう。


「軍艦が停船信号を発する前に外海で出たいのだが……」



 その頃、ローズマリー会長達のブルームエレガンス商会は、自社の船を停泊させている港からヴィレム達のやり取りを眺めていた。

「内海は私たちのテリトリー、セーリングを出すことにするわ」

「会長、軍艦に突っ込むのですか」と、社員が笑っている。

「訪問販売よ。訪問販売」


「おい、訪問販売開始だ」と、ある社員が叫ぶと、他の社員たちが「おぉぉ!」と返事をし、自分の船に乗り込んだ。


 彼らはセーリングヨットを使い、船や島に訪問販売をしていたのだった。

 その商売相手に、海軍艦があることは、問題なのだろうか。


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