第41話 急速発進せよ



「急げ、軍艦が追いかけてくる。出港だ」

「誰か、出港手続きに行け」

「タグボートは用意できるのか?」

「今、誰もいない」


 甲板では、怒鳴り声が響いていた。


「手続きは追えたが、タグボートがいない。艀が休んでいる」

 そう、港の中では帆船は動力が無いので、動力のある小さい汽船であるタグボートで港の外までけん引してもらうのだ。

 だが、何故かタグボートを所有している艀の連中が休んでいるらしい。

 そんなことがあるのだろうか?


 ジョルジェットが、工作をしたなど、ヴィレム達には知る由もないのだが。


「船長、うちの小型のタグボートを使いましょう。すぐに火を入れると間に合うはずです」

「わかった、やってくれ。カスペル」


 クリッパー船には、二隻のボートを積んでいた。

 一隻は手漕ぎで、もう一隻はタグボートであった。川に入る際や港に入る際、微力ではあるがけん引することが出来るためだ。


 クリッパー船からタグボートが下ろされた。

 煙も、すでに上がっている。

 けん引ロープを繋ぎ、ヘニー副船長とヴィレム達が乗っているようだ。

「よし、ヴィレム。ゆっくり出すぞ。慌てるなよ」

「はい、副船長」


「よし、隣の軍艦より先に出港できる」とは、ファース一等航海士だ。


 隣の軍艦が慌てている。


「軍艦が、どのような作戦があるのかは知らないが、先に出てしまえば、こちらのものだ」

 そして、出港許可も出て、管制塔から鐘が鳴らされた。


「よし、|"Sleutels tot de toekomst《スレイトゥルス トット ドゥ トゥークンスト》"号、微速前進」

 少し遅れて軍艦も出港した。

 だが、こちらのタグボートは搭載型の小さいもので、非力だが、軍艦は通常のタグボートを使っている。

 これでは、追いつかれてしまう。


 折角、先に出港したにもかかわらずだ。

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