第39話 ブルームエレガンス商会 4


 鞭で打たれた馬は、「ヒヒ~ン」と声を上げるとクリッパー船目がけて突っ込んできた。

 なので、警官たちが飛びのいた。


 その馬車から、飛び降りるかのように一人の女が降りてきた。

 ブルームエレガンス商会の会長だ。なんと、会長自ら馬に鞭を撃っていたようだ。

「後は任せるわ」と、手綱を業者に渡した。


 すると、女会長は一気にタラップを駆けあがった。

「勝手に入るな」と、警官たちが言うが、さらにもう一台、二台と馬車が突堤を駆け巡っている。


 それを見ていたジョルジェットらは、

「ジョルジュ様」

「なんと乱暴な……」と、ため息を付いた。


 女会長はデッキに上がると、「私は花問屋のブルームエレガンス商会の店主、ローズマリーよ」と、言い放った。

 その女の帽子には、紫のローズマリーが、左の胸には黄色いジャスミンの花が飾られていた。


「アインス商会、よく来たわね。貴方達が来るのは、バルドゥイーン会長から聞いていたわ」

「えっ」と、驚いたのは船員だけではない、警官もだ。

「何を驚いているの。腕木通信で聞いていたわ」

「……」

 沈黙がおとづれた。


「で、花の種は持ってきたのかしら。医薬品の中に入れているんでしょう。紫蘇系のハーブをお願いしていたわ」

 それを聞いた先ほど叫んだ警官は安堵した。ハーブの種など、有りはしなかったのだから。

「そんなものはなかった。あったのはこの麦だ」

「そう、見せて頂戴な」と言うと、女店主は鞭を振ると麦袋を奪い取ってしまった。

 そして、ニヤリと笑った。

「これよ。ちゃんと紫蘇じゃない。これはセージの種ね」

「何を言っているんだ」

 なので、男は再度、袋の中身を確認した。

 袋は先ほどと同じアインス商会のものだ。


「どうなの? これが麦なの?」

「いや、おかしい。これはおかしい。オレは……」

「隊長さん、暗い中で見たので麦に見えたのでしょう。で、如何かしら」


 隊長も袋を確認し、植物の種であることを確認した。


「ローズマリー会長、麦でなく植物の種と分かりました。ですが、あの馬車を止めてください。これでは暴走族です」

「あら、うちの社員たちが……もうおやめ! 話は終わったわ」と言うと、暴走馬車は止まった。

「もう終わりですか。これからが収穫時期でしたのに」という若い社員の声に、店主は「ハイハイ」と言う感じで手を振っていた。


 何者なんだ。この商会の連中は? と、誰もがそう思った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る