第38話 ブルームエレガンス商会 3
「まずは積荷を見せてもらおう」と、隊長らしき男が船長に行った。
「うん」と船長は頷くと、「ヴィレム、案内しろ」と言った。
「はい」
ヴィレムが倉庫まで案内するが、ところどころに船員が立っており、何かあれば飛びかからんとしているように見える。
そう、小柄なヴィレムだから、襲われる可能性があるというのを逆手に、護衛しているとでも言いたげだ。
「ここです」
「わかった」と、言うと海上警察官は箱を開けた。
「確かに、医薬品だ」
***
「ジョルジュ様……」と、ジョルジェットのお付きの男性が声をかけた。
「なんとかなったようだ」と、ジョルジェットが安堵している。
この二人が、何故、安堵しているのだろうか。
別の警察官が、「おい、これは穀物ではないのか」と叫んだ。
何故、わざわざ、大きな声で言う必要があるのかは、さておき。
「穀物?」
アインス商会が取り扱っている商品ではない。
そして、何故、穀物が見つかるといけないのだろうか。
「何だと、密輸は本当だったのか」
「隊長に知らせてきます」と、先ほど叫んだ男は言った。
実は、イギリスでは穀物の輸入は禁止だったのだ。
そんなものが船内で見つかってしまったのだ。三時間後に出航など出来るはずもない。
「おかしい。うちの船は穀物など運搬していない」
「こいつらの罠ではないのか」
「港に着くなり、おかしいと思っていた」と、アインス商会の面々は苛立っていた。
「海上警察に楯突くのか」
「賄賂でも貰ったのではないのか」
そこに、海上警察の隊長とハインリッヒ船長が降りてきた。
「さわがしいが、どうしたのだ」と。
「はい、積荷の中に穀物を発見しました」と、先ほどの男が袋を取り出した。
「密輸ではないかと思います」と、付け加えた。
「何を言っているんだ。穀物法はもう廃止されている」と、ファースが叫んだ。穀物の輸入を禁止し、イギリス国内の農業を保護したのだが、1846年には廃止されている。
「船長、説明をしてもらえますかな」
「どっちが説明をするんだよ」と、また、ファースが言いそうになったが船長が制止した。
この時、船長は嵌められたことに気が付いたので、「知らん。そんなものは知らん」と言うことは、おそらくいるであろう黒幕の思うツボだと思った。この隊長の策とは思えなかったからだ。
「医薬品の中に穀物ですか。それは輸出用の箱の中にあったと。しかし、禁止は輸入ですので、問題は無いかと思いますが、申告ミスはよろしくないことです。ですが、当商会は穀物など取扱っては降りませんが」
「嘘を吐くな。子会社のカール商会は穀物問屋だ」と、先ほどの男が言い放った。
そうなのだ。この男の言う通り子会社は穀物問屋なのだ。
「なるほど、一警察官にしては、詳しいのですね。よろしい、説明いたしましょう」と、船長はゆっくりと話した。
当然、ゆっくり話しているのは、思考しているからで、言い訳を考えていた。
「それに暗くて見えん。日の当たるところに出ましょう」と、ある警官が言ったので、デッキに上がることにした。
そして、改めて小さい穀物袋を開けると、麦らしき種が詰まっていた。精製はされていない。精製すると虫が付くのが早くなるからだ。
「では、船長。続きを話してもらいましょう」
それを見ていたヴィレムは、海上警察は穀物法が廃止されているのに、何を言っているのだ。そのことの説明は無いのかと思ったが、ジッと二人のやり取りを見つめることにした。
だが、このやり取りをジョルジェット達以外にも見ている者がいたとは、船の上からでは誰も気が付かなかった。
そして、馬車馬の馬が、ビッシと鞭で打たれた。
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