第四章 ブリテン島から脱出せよ
第32話 テムズ川の悲劇
ついにクリッパー船はドーバー港を出て、ロンドンのセイント・キャサリンドックを目指すこととなった。
テムズ川の河口は大きく広がっており、幾つか島がある。
さて、ここからはタグボートに牽引してもらい、ロンドンまで進むこととなる。
80メートル級のティー・クリッパーが、ゆっくりとテムズ川を登っていく姿は神々しくも美しい。
そのセイント・キャサリンドックでは、ロンドン支店の作業員が積荷の医薬品を用意していた。
医薬品を売り、茶を買う。
茶の支払いについては、手形の裏書譲渡で幾らかは支払うようだ。
出港時間は、翌朝の8時となった。
「随分とゆっくりだな」と言ったのは船長のハインリッヒだ。
「いえ、6時台も7時台も、混雑しておりまして、最短で8時になりました」とは、ファースの言い訳だ。
港は、早朝と夕方の出港が多い。
「ヴィレム、何故、医薬品をこんなに積むの」と言ったのは、先日のジャスミンだ。
「あぁ、これはムンバイのシュバルツ商会が経営している病院が使うんだよ」
「そうなんだ」
それを見ていたヘニーが思った。
医薬品も高価だ。高値で売れる。だが、今ここで……
「おい、今日は休んでくれ。明日の出航に備えて休んでくれ」とは船長だ。
今日は、皆、休むようだ。
翌日。
時間となり、出航をする。
「よし、快速帆船。ウィンドジャマー|"Sleutels tot de toekomst《スレイトゥルス トット ドゥ トゥークンスト》"号、出航する」と、船長が高らかに宣言をした。
「錨を上げぇ」と、ファースの声が聞えた。
船はドッグを出て、運河を通りテムズ川へと出る。この出航作業がたった30人で出来るとは、クリッパー船は合理的に作られているのだろうか。
そして、今、ティーレースが始まった瞬間であった。
だが、テムズ川を下って行くと下流に軍艦が三隻見えてきたのだ。
「おかしい」
「なぜだ」と、船員たちが騒ぎ出した。
「船長、あれではこの船が通れません」
軍艦が邪魔でテムズ川下流から外海に出ることが出来ない。
「まさか、『テムズ川の悲劇』の再来では」
「船長、それは?」
「あぁ、ヴィレム。『テムズ川の悲劇』とは、ロンドンから高価な荷役品を運ぶ船に対し海軍が、それを奪うことだ。有名な話では"キャプテン・キッド"の話が有名だな。テムズ川を下ったところ、海軍に荷役品も船員の半分も没収された」
「それで、キャプテン・キッドはイギリス海軍に復讐をしたのですか」
「さあ、そこまではわからんな」
しかし、船は下流に、どんどんと流されていく。
ここで停船しないと軍艦に突っ込んでしまうのだから、どうすれば良いのだろうか。
誰も、判断が出来なかった。
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