第31話 .閑話休題 奪われた下着2


 ヴィレムが、ラインラントからドーバー港に戻って来た時のこと。


 支店長は、フィッツジェラルド工場長にキャンセル料のことを説明するため、急いでドーバー港までやって来たのだ。

 500ポンドのキャンセル料しか支払うことが出来ないと。


 しかし、そのことについては、フィッツジェラルド工場長が竜骨に鉄を使うことで解決した。

 アインス商会の面々は安堵して、ヴィレムは、いつもの宿に帰ることにした。


 宿と言っても、厳密には社宅で下宿屋みたいな程度の設備しかない。

 ヴィレムには小さい一人部屋が与えられていた。

 中には、大きな部屋を二人でシェアしている者もいた。

 これは施設の問題なのだろうが、ヴィレムは、船乗りはいつも狭い船内で共に過ごすのだから、陸にいる時は一人になるべきだと思っている。


 さて、その宿に意外な人物が、その日はやって来たのだ。

 ジャスミンだ。


 ジャスミンは、一度、船で航海に出てみたいと思っていたが、工場勤務の自分には、その様な機会は無いと思っていた。

 だが、あのクリッパー船に乗って、半年ほど航海に出るチャンスを工場長から頂いたのだ。

 胸が躍らない訳がない。


 そこで、この胸の高鳴りを共有したい人物の元へやって来たのだ。


 そして、ジャスミンは、ドアをノックするなり、開けてしまった。

「ヴィレム!」と。


 ヴィレムは、着替える最中であった。

 ズボンを!


 そして、そのズボンの下には、当然、下着があり、あのカロリーネがリボンたっぷりに改造した下着を履いたままヴィレムはドーバーまで着ていたのだ……


「ヴィレム、なに……女物の下着は……」

「えっ……あっ、これは、カロリーネが……」

「なに、その下着はカロリーネっていう女の下着を履いている訳なの。カロリーネって、ヴィレムとどういう関係なの」


 そういうジャスミンは、大声で怒鳴っていた。


 隣の二人部屋で、その会話を聞いていた一等航海士のファースは、「アインス商会で一番有名な使用人なんだけどな」と、呟いた。


 しばらく、ヴィレムはジャスミンとしばらく会話することが無くなり、仕事がはかどったのでした。


「ヴィレムって、結構、お尻が大きいんだ」



第三章 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る