第23話 クリスティアーネの誓い


 カロリーネが踊るように笑っていた頃、ヴィレム達は、川を下る準備をしていた。

 そして、ヴィレムはハインリッヒ船長に訪ねた。

「『おじ様』、いや、会長が言っていた『先祖が交わした友情の誓い』とは何のことです?」と。

「あぁ、そのことか。会長や支店長のアインホルン家とご領主様との間で交わされた……」

「それは、故郷のラインラントを護るという誓いですよね」

「あぁ、そうだ」

「だとすると、船長は関係ないんじゃあ」

「実は、我が先祖はロッテルダム支店長を努めたクリスティアーネ・ド・モッテ様なんだ。ロッテルダム支店長をされていたヴィルヘルミーナ様が、ラインラントに南ドイツからカトリック貴族が攻め込んだ際、支店長を退任されラインラントへ帰られたのだ。ラインラントを護るために。その間、クリスティアーネ様が支店長として支店を護る誓いを立てたのだ」


「そんなことがあったのですか」

「ヴィルヘルミーナ様が戻るまで、支店長としてロッテルダム支店を護ると。だが、ヴィルヘルミーナ様は戻ってこなかった。その後、行方知れずと……」


「そんな……

 ところで船長。ヴィルヘルミーナ様はご領主様でしたよね」


「あっ、紛らわしいよな。実は二人おられて、ご領主様のヴィルヘルミーナ様とその孫でクリスティアーネ様とロッテルダム支店にいたヴィルヘルミーナ二世様がおられる」

「そうなんですね」


***


 17世紀なかば


 若かりし頃は、“お転婆令嬢”と言われていたヴィルヘルミーナ二世も落ち着き、前任のロッテルダム支店長のイリーゼ・アインホルンの跡を継いで、支店長となっていた。

 だが、ラインラントへ南ドイツからカトリック貴族が侵攻を開始してきた。

 二世は、一世の『友情の誓い』をよく知っていた。何故なら、幼い頃より、一世から話を聞かされていたのだから。

 一世とエマリーの友情を。

 共に故郷を護ると。


 だから、戦争となれば、武器を調達し馳せ参じる覚悟であった。

「クリスちぃ、申し訳ないわ。仕事を放棄して故郷に戻るなんて」

「何を言うの。ごめんなさい。まさか、私の実家が、ミーナの領地に攻め入るなんて」

「これだけはね。何とも……でも、私達、二人の友情は変わらないわ。家柄、宗教、戦争、いつだって私達は、闘ってきたわ」

「ミーナ、貴女が戻るまで支店は護るわ」

「お願いするわ」


「ミーナ」と声をかけたのは、前支店長のイリーゼだ。

「いつもいつも、この老体をこき使ってくれるわ」

「どこが老体なんですの」

「私とクリスティアーネで、ロッテルダム支店はなんとかする。ラインラントに武器を早く運んであげて」

「はい、任せてもらいますわ」

 そう言って出発したヴィルヘルミーナ二世を見たのは、この日が最後だった。


 船長は、この日、見送ったクリスティアーネの子孫だと言っている。

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