第三章 踊るように笑え
第21話 踊るように笑え
「ヴィレム、なんだ?」
そう言ったのは、ハインリッヒ船長だ。
しかし、支店長は、「いや、ヴィレム、なかなか、可愛いじゃないか」と、笑ってしまった。
なので、会長夫人は、「カロリーネ、なんですか」と、問いただした。
「奥様、よいではありませんか。ヴィレミーナ様も、よく似合っておりますし。懐かしいではありませんか」と、女使用人は優雅に笑い出した。
そう、七歳の頃をと言いながら、この赤いドレスは子供服ではない。成人女性のためのものだ。
どこから用意したのだろうか?
カロリーネのものだろうか?
それとも、特別にヴィレムのために作ったのだろうか?
だとすれば、何故、男のヴィレムのために?
さて、ヴィレム本人は、自分のことを「可愛いじゃないか」と言って、笑っている支店長を睨みつけている。
まさに、「ムスッ」と言ったところである。
さて、困ったのは船長だ。
「支店長にヴィレム、話はまとまったので、帰りたいのだが……」
すると、女使用人のカロリーネが言った。
「では、ドレスのままで、お帰りになられるのですね」と。
なので、夫人が、「カロリーネッ」とキツく発した。
また、女使用人は笑いだし、踊るかのように、「奥様、申し訳ございません。では、失礼いたしますわ」と、部屋から出て行ってしまった。
余りにも、自由奔放な女使用人に、開いた口が塞がらない支店長と船長であったが、船長が「おい、ヴィレム。もう、女装はよいから帰ろう」と言った。
ここで初めてヴィレムが口をきいた。
「船長、ドレスは一人では着替えることができません」
そうなのだ。使用人がいないとドレスは着ることも、脱ぐことも出来ない。
だから、カロリーネは、部屋から出ていったのだ。
まあ、夫人の血圧が上がったようだ。
「私がやります」と。
男達は、部屋を出て会長室にいたが、会長が席を外すようだ。
そして、廊下には先程の女使用人が腕を組んで、壁に持たれていた。
使用人としては、随分と態度が大きいのだが、彼女は、それなりの名家から働きに来ているらしい。
「旦那様、どうでしたか?」
「あぁ、カロリーネ。どことなく似ている。赤いドレスを着せると、よくわかる。似ている。よく機転を利かせてくれた。ありがとう、カロリーネ」
「いいえ、お安い御用ですわ」
ヴィレムと赤いドレスに、如何なる関係があるのだろうか。
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