第18話 500ポンド


 そう怒鳴ったため、会長は咳き込んでしまった。

 顔を赤らめ、興奮している様子だ。

「お前たちは、お前たちは」と、言っているが咳が邪魔をする。


 だから、夫人が代わりに話すこととなった。

「あの子は、私達の希望なのですよ。無理に危険な目に合わせる必要などありません。お分かりですか」


「奥様」と、言ったのは船長だ。


「ヴィレムは『私達の希望』です」

 会長夫人は『さもありなん』と頷いた。

「だから、あの子は一人前にしてやりたいのです」と、船長が言ったものだから、夫人は一瞬で顔色が変わってしまい、「ハインリッヒ、貴方は」と、声を荒げてしまった。


 ここで、咳を鎮めることが出来た会長が口を開いた。

「あの子は若い。だから、『行くか?』と聞けば『行く』と答えるだろう……それは若いから血気盛んなだけだ。大人が鎮めてやらんとイカンのだ。大人が……」


 また、会長夫人が付け加えた。

「ヴィレムを連れて行くなら、支援金は出しません」と。


 これには、支店長も船長も頭を抱えるしか無い。財布の紐は握られている。


「会長! フィッツジェラルドさんには、作業に取り掛かってもらっています。これは……」

「そうか。フィッツジェラルド工場とは、長い付き合いだ。キャンセル料金として、500ポンド用意しよう」

「なんと、会長……」


 二人は項垂れそうになった。

 そこに、夫人が追い打ちを掛けた。


「ハインリッヒ、どうしてもあの子を連れていきたいなら、貴方の進退をかけるしか、ございませんわね」

「奥様、私のクビで事足りるなら」

「船長、なら私も」と、支店長まで言うものだから、会長夫人の血圧はさらに上がったようだ。


 しかし、会長はキャンセル料金の500ポンドしか支払わないのだから、クリッパー船の建造は中止になると思っていた。

「あぁ、アムステルダム支店に連絡をせんとな」



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