第17話 『友情の誓い』危機一髪
「ヴィレム様、こちらへお座りください」
「あぁ、みんなして、僕をのけ者にしている。『おじ様』も『おば様」も、僕を子ども扱いしているじゃないか」と、ヴィレムは応接間で愚痴っていた。
まあ、ヴィレムも15歳になり、この時代では成人なのだ。
しかも、二等航海士の試験に合格したのだ。
これから、ヴィレムの活躍でアインス商会は……などと可愛い具合にうぬ惚れていたのだが、会長たちの会話では、何やらヴィレムには出自に関する秘密があるようだ。
その頃、会長室では、まだ、会長の話が続いていた。
「あぁ、あの時、ハイデルベルクが陥落するようなことが無ければ……ご領主様が解任されることもなく……」
バルドゥイーン・アインホルン会長は何を言っているのかと言うと、17世紀にプファルツ州を巻き込む大戦争があったのだ。
いわゆる三十年戦争だ。
この戦争は、ブルボン家とハプスブルク家の戦いに発展していったが、最初期は、このプファルツ州ラインラントから起こっている。
その際、この一帯を治めていたプファルツ選帝侯であるライン宮中伯がボヘミア王を名乗り、新教徒の代表者となった。しかし、バイエルンを中心としたカトリック勢力に敗れ、ハイデルベルクは衰退して行くことになり、一時、プファルツ選帝侯は選帝侯から外されることになる。
帝国始まって以来の一大事なのだ。
そして、ライン宮中伯に付いて闘ったご領主様は、領地をカトリック側に没収され、一族が帝国内に散ってしまった。
養子、養女に向かい入れられた者など、その後、行方をアインス商会としては追っていた。
しばらくして、プファルツ選帝侯は復帰したが、領主家は復活しなかった。
当時のアインス商会の会長は、叫んだのだ。
「これでは、先祖の『友情の誓い』が果たせないではないか!」
そう、嘗て、アインス商会の会長を務めたエマリー・アインホルンが、領主のヴィルヘルミーナに誓ったのだ。
二人の故郷であるラインラントを護り続けること。
そして、二人の友情は永遠に続くこと。
それは、世代を超え、時間を超えても続くと。
だが、この誓いもエマリー・アインホルン自身が護れなくなりそうになったことがある。
エマリーは未婚だ!
世代を超えられない……
なので、弟の息子を養子にすることで事なきを得たことがあったようだ。
だが、今度は、領主家が解体され、領地から離れてしまった。
もう、ヴィルヘルミーナの子孫たちにとってラインラントは故郷で無くなってしまったのだ。
なんという、無念。
だから、バルドゥイーン・アインホルンは悔しいのだ。
あの忌々しい戦争さえなければ。
あの時、バイエルン大公が野心を燃やさなければと……
そして、ラインラントの中心地、ハイデルベルクは二世紀掛けて、ようやく復興しつつある状況で、随分と活気が無くなってしまった。
難攻不落のハイデルベルク城の壁には、今も銃弾や砲撃の痕が残っている。
「そして、ようやく見つけてきた“ご領主様の血を継ぐ者”であるヴィレムをアジアへ行かせるというのか。お前たちは」と、会長は叱責した。
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