第二章 ラインラント

第15話 次の時代


 イギリスではフィッツジェラルド工場長たちが、クリッパー船の改造を行っていた頃、ヴィレムたちはロッテルダム支店に戻っていた。


 支店長を出迎えたのは副支店長のハブリエルだ。

「支店長、おかえりなさいまし」

「あぁ、ただいま。ハブリエル、変わったことは無かったかい」

「はい、あれ以降、ヘニー達もおとなしくしております」

「それは良かった」

 支店長は、少し間をおいて話し始めた。


「早速ですまない。本店に行き会長に会うことにする」

「支店長……それは……いつ?」

「明日だ。タグボートを用意してくれ」

「タグボートでライン川を?」

「そうだ、少しでも早く行きたい」

「なら、馬車という手もありますが」

「いや、ライン川をさかのぼる。ヴィレムとハインリッヒも連れて行く」


 その時、副支店長のハブリエルは、船員としてヴィレムを連れて行くのだと思った。

 なので、「タグボートに、二等航海士とは贅沢ですな」と返答すると、支店長はニヤリとして「そうだな」と答えた。


 翌日


 支店長は船長とヴィレム、あと一人の船員を伴い、ライン川をタグボートで遡ることとなった。

「石炭はケチるな。帰りは流されてきたらよいんだ」

「それはカッコ悪いです。支店長」

 と、船員の声が聞えて、皆が笑い出した。


「なあ、なんでタグボートの船長をハインリッヒ船長がするんだ」と言ったのは、先日のヘニーだ。

 ヘニーも一等航海士なので、他の帆船の船長をすることもある。

 しかし、タグボートは数人乗りで、しかも、貨物船ではない。

 他の航海士がやっても良いはずなのだが、支店長は、「ハインリッヒでないとダメだ」と言う。

 それが、ヘニーには気に食わなかった。

 無論、自分がやりたい訳でない。


 なので、支店長は、「ヴィレムの教育だ。将来、一等航海士になるだろうから、教育をさせてる」と。

「支店長、タグボートが操縦で来ても一等航海士にはなれません」

「いずれ、汽船の時代が来る。わかるか?」

「いえ……」

「小さい汽船が扱えないと、大きいものは無理だろう。帆船とも違うだろう。あの汽船とやらは」

「そう……ですか……」


 ヘニーには、支店長の言う次の時代の海運は、よくわからなかった。

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