第14話 風障 


 その日の午後、アインス商会の支店長を始め、船長、船員はロッテルダムへ戻って行った。

 ヴィレムも戻って行った。


「ヴィレム、帰って来るまでには直しておくからな」と、ジャスミンが言うと、「おい、無責任なことを言うなよ」と、先輩らしき工員が愚痴った。


「ありがとう。ジャスミン」と、ヴィレムは手を振るのだった。


 さて、工場長は、もう一度、皆を集めた。

「よく聞いてくれ。竜骨は見つからなかった。どの商人も不思議なことに、今週は木材の流通が悪いと言っていた。何かにハメられたかもしれない。

 だが、我々の仕事は、船を完成し武器を載せることだ。武器工場からはカロネード砲が八門届いている。

 そこでだ」と、工場長が言うものだから、工員たちの眼は鋭さを増した。


「竜骨は変えない。変えている時間は無いし、竜骨もない。だから、このまま使う」

「どういうことだよ。工場長」

「強化する。鉄を使い強化する。そう、大砲と同じだ。木材と鉄を使う」


 工場長は考えたのだ。

 一本の竜骨は用意できないので、補修は出来ないだろうか。

 燃えて炭になった箇所を切取り、新たな木片をコールタールで固めても、強度は落ちる。それで、アジア往復の旅で通用するのか?

 

わからない。


わからないなら、出来る限りの補強をする。


 鉄?


 蒸気船は一部、鉄を使っている。

 なら、帆船にも使えるはず。

 とはいえ、鉄を使う蒸気船は重く速度が出ないが、今は、間に合わせることが大事だ。

 そして、これなら、鉄を加工して使えばよい。我が工場で十分対応できる。


 ただ、海面に設置する部分に鉄を使うのだから、錆に注意も必要だ。

 航路の途中に部品交換なども必要だろうか……


 いや、とにかくやってみよう。


「おい、ジャスミン。この通り鉄板を作って来てくれ」

「はい、工場長」


 この様にして、クリッパー船は竜骨を鉄製品でつなぐことになったのであった。


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