第3章 夢と現実の境界線

「カイト、一緒に夢から覚めましょう。現実に戻るのよ」

ミナは恋人の手を取り、力強く訴えた。

しかしカイトは、悲しげに首を横に振る。

「僕にはもう、戻れないんだ。ネイディアンは僕を夢の番人に選んだ。人間が夢に逃げないよう、監視する役目を与えられたんだよ」

「そんな!私はカイトと一緒に生きていきたいの。夢の中じゃなくて、現実で!」

ミナの瞳から、涙がこぼれ落ちる。

カイトは優しくミナを抱き寄せ、その髪を撫でた。

「ミナ、君は強い人だ。僕がいなくても、君なら必ず現実を生き抜ける。今こそ夢から覚める時なんだ」

その時、2人の周囲の空間が歪み始めた。

ネイディアンの力が夢の世界に干渉し、あらゆるものが形を変え始めたのだ。

空が揺れ、大地が波打ち、建物が溶けるように崩れ去っていく。

「ネイディアンが怒っている。もう夢の世界は安全じゃない」

カイトは蹲り、大地に手をつく。

途端、2人の足下から光の柱が天高く伸びた。

「ミナ、これが夢から脱出するための道だ。君を現実へ帰す」

「でも、カイトは?」

「僕は残る。誰かがネイディアンと向き合わなくちゃいけない」

カイトはミナの頬に口づけし、そっと光の柱へと押しやった。

抗う間もなく、ミナの意識は上へ上へと引き上げられていく。

最後にカイトの姿を見た時、彼は光に包まれ、ネイディアンの姿に変わりつつあった。

「カイト!」

絶叫しながら、ミナは夢の世界から引き剥がされた。


次の瞬間、ミナはドリームダイバーのカプセルの中で目覚めていた。

全身に電極を貼り付けられ、太いケーブルでマシンと繋がれている。

「ミナさん、よかった、戻ってこられたのですね」

カプセルを開けて、研究助手のリズが安堵の表情を見せた。

ミナは夢の中で知った真実を、レイブンたちに告げた。

ネイディアンの怒り、夢の住人となったカイト、そして今まさに夢から覚醒しつつある人類。

「やはり、ネイディアンが人類に宣戦布告をしたということですか」

レイブンは分厚い眼鏡の奥で瞳を潤ませる。

「夢の中に逃げ続けたツケが、まわってきたということだな」

その時、研究所中に警報が轟き渡った。

「所長、大変です!アストレアの各地から、ネイディアンの襲撃報告が入っています!」

リズが情報端末を操作し、惑星の各都市の映像を映し出す。

至る所で、ネイディアンの姿をしたエーテル体が出現し、人々を襲っているのだ。

まるで悪夢のように、街が次々と破壊されていく。

「ネイディアンの夢の力が、現実世界にまで影響を及ぼし始めたのか」

レイブンは额の汗を拭う。

「人類は、ネイディアンに想像以上に依存していたということだ」

この事態を止めるためには、ネイディアンとの対話が必要不可欠だ。

だがそのためには、ネイディアンの言葉を理解し、信頼を得られる人物でなくてはならない。

ミナは夢の中でカイトから、ネイディアンの心情を學んだ。

おそらく、ネイディアンと渡り合える唯一の人類は、自分しかいないのだ。

「所長、私をもう一度夢の世界に送って下さい。ネイディアンと直接対話を試みます」

「だが、危険すぎる。君はもう二度と戻ってこられないかもしれない」

レイブンが難色を示すのももっともだ。

それでもミナは、覚悟を決めた。

「私にしかできないことがあるんです。カイトの分まで、ネイディアンに人類の想いを伝えなくては」

ミナの凛とした眼差しを見て、レイブンは観念したように溜息をつく。

「君の勇気を信じよう。ネイディアンとの架け橋になってくれ」

こうして、ミナは再びドリームダイバーに収まった。

ネイディアンとの対話を成功させ、平和を取り戻すことができるのか。

ミナの意識が再び夢の世界へと沈んでいく。

人類の運命を賭けた、最後の戦いが始まるのだった。

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