第2章 禁断の研究
「真実を知った、だって?いったい何のことを言ってるのかしら」
研究所の一室で、ミナは首を傾げた。
カイトからの最後のメッセージを何度も反芻する。真実とは何なのか。どうしてカイトは、夢から目覚めなくなってしまったのか。
ミナは手を拱くことができず、恋人を捜す手がかりを求めて、政府直属の夢の研究所を訪ねたのだ。
そこでミナを出迎えたのは、研究所の所長を務める老科学者ドクター・レイブンだった。
銀髪を撫で付けながら、レイブンはゆっくりと口を開く。
「君の恋人も、夢の病に感染したようだね。症状から見るに、もう現実に戻ってこられる可能性は限りなく低いだろう」
「そんな!私はカイトを取り戻したいの。必ず目覚めさせる方法があるはずよ」
食い下がるミナに、レイブンは困ったように溜息をついた。
「方法がないわけではない。だが、とてつもない危険が伴う。いいかい、諦めることだって選択肢に入れておきなさい」
そう前置きしてから、レイブンは研究所の奥へとミナを案内した。
地下3階、厳重に立ち入りが制限されたエリアに、一台の装置が鎮座している。
それは直径5メートルはあろうかという巨大な球体で、中には何やら複雑な機械が組み込まれているようだった。
「我々はこれをドリームダイバーと呼んでいる。文字通り、他人の夢に入り込むことができるマシンだ」
レイブンの説明に、ミナの瞳が見開かれる。
「これを使えば、私はカイトの夢の中に行けるのね?」
「正確に言えば、君の意識をカイトの夢の中に飛ばすことができる。肉体はこのマシンに接続されたまま、ここに残ることになる」
これまでドリームダイバーを使った実験は、全て悲惨な結末に終わっているのだとレイブンは言う。
夢の中に取り残され、肉体は生きているのに意識が永遠に戻らない実験者たち。
カイトを追って夢の世界に行けば、ミナにも同じ運命が待っているのかもしれない。
それでも、ミナの決意は揺らがなかった。
「お願い、ドクター。私をカイトの夢に送って」
レイブンは覚悟を決めたミナの眼差しを見つめ、静かに頷く。
こうして、ミナはドリームダイバーのカプセルに収まり、意識を夢の世界へと飛ばすことになるのだった。
果たしてカイトに再会することができるのか。カイトを連れ戻す方法は見つかるのか。
静かに瞳を閉じるミナ。彼女の意識が現実を離れ、夢の世界へと沈んでいく。
次の瞬間、ミナの意識は別の場所に飛ばされていた。
遥か昔のアストレア、人類が移住を始めたばかりの頃の大地だ。
未開の惑星に降り立った開拓者たちは、軒並み同じ悩みを抱えていた。
「夢を見ると疲れが取れない」
「夢の中で本物のような体験をしてしまう」
「夢から覚めたくない」
やがて人々は気付く。この大地の先住民、ネイディアンの姿を。
ネイディアンは夢の中に住まう種族で、夢と現実を自在に行き来する力を持っていたのだ。
開拓者たちは、ネイディアンの力に魅了され、やがて依存するようになる。
現実の苦しみから逃れるため、いつまでも夢の中で暮らしたいと願うようになるのだ。
この時、人類は禁断の果実を口にしてしまった。
ミナの意識に、人類の選択の過ちの記憶が次々と流れ込んでくる。
そして、カイトの声が聞こえてきた。
「ミナ、夢の中まで追いかけてきてくれたんだね」
カイトはミナに微笑みかけるが、その笑顔は曇っている。
「ネイディアンが怒っているんだ。僕たち人間が、彼らの夢を利用しているから」
人類の夢の中の楽園は、ネイディアンからすれば侵略行為に他ならない。
カイトはそのことに気付き、ネイディアンとの対話を試みたのだ。
だが、その代償として夢の中に取り残されてしまった。
「私たちは、夢から覚めなくちゃいけないのね」
ミナは静かに言葉を紡ぐ。
人類が夢の中に逃げ続ける限り、ネイディアンとの対立は避けられない。
夢から覚め、現実を生きることが、ミナたちに託された使命なのだ。
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