外堀
「私以外見たらだめだよっ?」
こう、言われたことがある人はいるだろう。
互いを好きあっていて、取られないか不安になった彼女が彼氏に言いがちなセリフ。
これを聞いた彼氏は当然のように。
「当たり前だろ、大好きだよ」的に返し、
「もー、わたしも大好きっ♡」とイチャコラする流れである。
大変微笑ましい、幸せいっぱいラブラブカップルの出来上がりである。
そんな王道ラブコメシチュを進化?させた奴がいた。
これは友人の話である。
高校1年の半ばから付き合い始めた二人。進学科ということもあって、恋愛と勉強のバランスを両立させた、順風満帆な二人。
だったけれど、彼氏のある出来事がきっかけで彼女はすっごい進化した。
それは、何気ない会話だった。
「彼氏くんさー、私と付き合わないー?」と、
先輩から言われた。
この先輩は、以前体育祭で選抜リレーを走った彼氏くんに惚れたらしく、それで告白をしてきていた。当然、彼氏は断っていた。きっぱり「彼女がいるから」と。
しかし、その時は違った。彼女との喧嘩中で仲が悪くなっていた。それもあってか、彼氏の返事は、
「じゃあ、デートいきます?」と。
断られると思っていた先輩は驚いて、
「え、まじ?じゃあ、今週末に○○とか、、、?」
「いいですよ、詳しいことは後から一緒に決めましょう」
「約束ねっ!!じゃっ!」
浮気とも取られないことをしたのだ、彼氏は。
そして、先輩とのデートを終えた彼。
先輩とのデート、それはもう終始笑顔。
だって、先輩可愛いし、理不尽に怒んないし。嫌だったら落ち着いて話し合いしようとしてくれるし。何より、会話が途切れた時の気まずさがなかった。
彼女とのデートはこうはならない。正反対だった。
それでいて、ここ最近彼女とはうまくいってない。自明の理である。
彼女と別れ話をしたときは、大変だった。
ただ、彼女も彼女で思うところはあったらしく、恋人関係を解消して友人として付き合いなおすことになった。
正直驚いた。元カノは感情的で話にならないと思っていたのが、互いに落ち着いてちゃんと話してお別れできた。彼氏も彼氏で安心した。初めての恋人で、不器用ながらもちゃんと互いに向き合っていたことを実感できて、「ちゃんと恋愛できていたんだ、彼氏できてたんだ」と。
そのあと、先輩とは何度かデートをした。そうして、半年ほどだった日、先輩の誕生日に告白をした。先輩の返事は、「不束者ですが、末永くお願いします」だった。
この時の彼は高2だった。はっきりいって捕まったのだ。世間知らずで返事の意味を理解していない勉強バカ。本物のバカ。こいつは逃げられない蜘蛛の巣に飛び込んだのだ、嬉々として。
先輩との日々は、安定していた。変に揉めることもなく、幸せに日々を過ごしていたのだ。自然と互いに自らを磨いた。
彼氏は、落ち着いたクールなイケメン風に。彼女は、家庭的で年上らしい余裕を見せたお姉さんに。お似合いの二人にまで成長して幸せいっぱい。苦難があれど二人で乗り越えることも少なくない、立派な恋人関係に成長したのだ。
そんな彼らは、彼が大学に入学した後も交際は続いた。
事件は大学3年の進路相談会の時に起きた。
いつものように、彼は先輩に相談した。
「僕はこういう道を進もうと思ってるんだけど、先輩はどう思う?」
「あぁ、それがいいと思うよ。あと、これどうなってる?」
そうして渡された封筒の中を見ると、1枚の紙が入っていた。
何の紙か分からなかったぼk、、、彼は、取り出して思考が止まった。
当然だろう、そこには大きく、結婚届、と書かれ、僕以外の項目は埋まっていた。あとは、僕がサインして出せば晴れて夫婦になる。
そして、紙に落とした視線を先輩に戻すとポケットから何かを取り出して、こう告げた。
「結婚しよう。これからも末永く、一緒に幸せになろう」
小箱の中には、綺麗な銀色の指輪が2つ。
外堀が埋められまくっていることをやっと理解した彼は、
「喜んで」と。
結果として、彼は嵌められた。先輩は彼の高校卒業の時からとある計画を実行していた。
彼との結婚、という約束された未来を掴むために。
彼のイベントを利用しては、外堀を埋め続け、成果として1枚の紙を手に入れたのだ。
その後の僕は、忙しかった。両親や相手の親御さんに報告したり住居を用意したり就活したり、本当にせわしなかった。
やっと全てが落ち着き、ベッドで二人して余韻に浸っていると、妻となった先輩から、一言。凄く幸せそうな目で、運動したせいか、上がった息をしながら。
「私だけみてね、あなた」
今は愛も多様性 佐藤恩 @Sat0o4o4
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