その6
昼休み。
俺は購買で買ったサンドイッチを取り出した。
「またそれか?」
「好きなんだよ」
「ウソつけ。安いからだろ」
「ケチをつけるな。購買のおばちゃんの心がこもってるんだよ」
「購買のおばちゃんじゃなくて工場でつくってるぞ。それ」
ホンモトはちょくちょく母親のように俺に食事の文句を言ってくる。もはや俺に母親はいないが、ウザいような、懐かしいような、恥ずかしいような気持ちになる。
「本本くんとサダムくんってデキてんの?」
「あれは完全にデキてる」
「いや親子じゃね?」
ヒソヒソと話すクラスの女子
「デキてない!たとえ俺が同性愛者や女の子でも、コイツだけとは付き合わねえぞ!」
俺はソナーマンばりの地獄耳でそれを探知し、中世の騎士ばりに声を張り上げる。
「バリバリ言ってお前は福岡人か?」
「思考を読むな!」
するとまたヒソヒソニヤニヤ。
「このクラスに馴染んだな。ラファト」
「どこがだよ......」
このクラスの連中はよく悪ノリするというのは分かった。
「俺はお前の貧弱な食生活をどうにかしてやらねばならない」
なぜかホンモトが大宣言する。
「間に合ってる」
「さらに友達がいないお前に友達を提供してやる」
「お前もいないだろ」
ホンモトは無視して続ける。
「部活をつくるぞ!」
†††
放課後。
私は一人廊下を歩く。とにかく早く帰りたい。帰宅部なので。
「
声をかけられる。
「
誰かと思ったら凛美絵だった。
「もう帰るの?ヒマ人だねぇ」
などと言ってくるが彼女も帰宅部だ。
「ラファトくんはいいの?」
「は?」
凛美絵がいきなりサダムくんの名前を出したので驚いた。
「見ちゃったもんね」
話を聞くと、私がサダムくんと家具を買いに行った日に一部始終を見ていたようだった。
「べ、別に付き合ってないし」
「ふーん」
凛美絵はメスガキじみた笑みで私を見る。私が竿役おじさんだったら5秒以内にわからせているが、私はギャル(のふりをしたナニカ)で、彼女は親友なのでぐぬぬと言って終わった。
実際のところサダムくんはなかなか魅力的な男子だと思う。
今まで私の近くにいた男子は、すぐに言い寄ってくる人が多かった。まぁ、ヤリモクってやつだ。サダムくんはそうでなく、どこか大人じみているが、どこか子供っぽい部分がある、面白い人だということはわかったし、この前家具を一緒に買いに行って仲良くなった感はあったが、別にまだそこまでの関係ではない。それに、サダムくんからしたら私の第一印象は最悪だと思う。そのイメージがあるから言い寄って来ないだけなのかもしれない。
言い寄ってくる男子は多かったがぶっちゃけ私はそれ以外の男子のことはよくわからないので、彼らが何を考えているのかもよくわからない。
「乃愛?難しい顔してどうしたの?」
「い、いや......なんでもない」
「ふーん。ん?」
凛美絵がふと視線を動かす。そこには家庭科室。
「なんか人いない?」
「うん。珍しいね」
家庭科室の前は帰るときによく通るが、今まで人がいた事は一度もなかった。
「と、言うわけで、作るぞ調理部!」
「二人で部?」
「いやいやこれから集めるんだよ。バカだなぁ」
「アテはあるのか?お前友達いないのに」
何やら中から声が聞こえてくる。
「お、面白そう!行ってみようよ」
「ちょっ。凛美絵っ!?」
なにが面白そうなのかは分からないが、凛美絵はテンションが上がり、私の手を引いて家庭科室に突撃した。
†††
ホンモトは放課後になると
「部活を作るぞ!」
ともう一度大宣言をかまし、ついてこいというのでついてきたら家庭科室に連れてこられた。
「家庭科室?」
「そうだ。俺はお前の栄養状態が心配だ」
「そうかよ。それで?」
「ここ、家庭科室でやることといえばなんだ?ラファト」
「裁縫」
「ちっっがあああああう!!!!」
「う、うるさ......」
「そこにあるコンロが見えないのか?」
家庭科には長テーブルが6つあり、テーブル一つにコンロ3口と流し台がつけられている。いずれも俺のアパートより立派だ。
「部活を通してお前には料理をできるようになってもらう。どうせやってないだろ」
「はぁ。」
俺は簡単な料理ならできるが、日本の物資の豊かさ――スーパーのお弁当やカップ麺や何より購買のサンドイッチ――に負けて自炊はしていない。確かに金はないが、料理はめんどくさい。
「と、言うわけで、作るぞ調理部!」
「二人で部?」
「いやいやこれから集めるんだよ。バカだなぁ」
「アテはあるのか?お前友達いないのに」
俺がそう聞いたとたん、家庭科室の入口がガラガラと開いた。
「たのもー!楽しそうなことやってるじゃん」
一瞬、教員に家庭科室の無断使用がバレたのかと思ったが、違った。
「うおおおお!!!!!!ギャルコンビ!!!!!!」
ホンモトがもはや絶頂してるだろという勢いで絶叫した。
入ってきたのはいつの日かナカエさんのヒミツがどうのこうの言ってきたツインテール、リミエとナカエさんの二人組だった。
「うっすー」
ナカエさんがギャルモードで挨拶する。そんなに乗り気ではなさそう。どうやら彼女はリミエが引っ張ってきたようだ。
「
「うっすー」
ナカエさんはリミエの挨拶に適当に追随していた。
「お、小野寺さん!?俺のこと覚えててくれたの!?」
なんだかホンモトが興奮している。
「そりゃ本本くんは変じ......目立ってるからね!」
「マジか!興奮してきた!もしかして入部希望?」
「帰宅部だし......部活やってみたいかなって」
ノリが良い二人は勝手に盛り上がっている。
「ナカエさんは?」
リミエの後方に居てなにも言わないナカエさんに聞いてみる。まぁホンモトとリミエだけなら勝手にやってくれという感じだが、ナカエさんが入部するというなら話は別だ。
「私は......」
ナカエさんが間を取る。
「ラファト。お前は問答無用で入部だからな」
ホンモトが思考を読んでくるが、無視。
「うーん......乃愛とサダムくんがやるなら、私も......」
マジ?それってお誘い?というような言葉を彼女は非常に迷いつつ言った。
「ヒュー!」
「いいね!乃愛も入ろうよ!」
こうして俺達4人の活動は始まったのだった。
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